中学生らに通信簿の評定を書いてもらっていたときのこと。

 

いつも授業の1時間前には教室に来て、弱点部分の問題をコピーしてもいいですかと言って本棚から問題集を取り黙々と勉強に取り組むマジメ女子ではあるけれど、天真爛漫というか、たまに着てくる私服はヒョウ柄パンツで、私の英語の授業も自分で数学を優先したいときは数学をやりたいです!と真っすぐ自己主張してくる天衣無縫な女子が「先生…」と弱々しい声を上げました。

 

「ん?どうしたの?(…通信簿が悪かったのかな)」

 

「学校の先生がつける評定って…、

先生の気分は入ってます?」

 

「きぶん?」

 

ハッハ~ン……これはなんかあったな…。

 

「評定にその人の気分が入っているかいないかでいったら…

建て前上はない。

評価項目は決まっていて、テストの点数のほかに、興味関心態度や、提出物が守られているかどうかで客観的に評価されるようになっているからね…。

ただ、これは建て前上ね。

なんかあったの?」

 

聞けば、ある科目の問題で「( 喜び )や( 悲しみ )に…」という答えのところを、この子は「( 悲しみ )や( 喜び )に…」と逆に書いて×になったのだという。

 

で、それに対して、これでもいいではないかと先生に持っていたらワークにあった通りに書きなさいということで判定は覆らなかったという話。

 

ある賢い友達は、助詞の「や」というのは並立の関係なので言葉が前後していても意味が通じるはずだ…と、国語の参考書まで持ち出して、これでマルにならないのはおかしいと理論武装したけど…ダメ。そこで、「じゃあ他の先生に聞きます」と啖呵を切ったら、その先生に「侮辱されたみたいで悲しいです」と言われたということでした。ふ~ん…。

 

「ね!おかしいですよね」

 

「まあいるから。そういう人。お役所仕事というか…応用が利かない人ね。多分今までの人生、その人はそれで通じてきたんだろう」

 

「で、私だけじゃなくてクラスの他の人も結構食って掛かったんですよ。そしたら結局はマルになりました。上から言われたんだろうってウワサです」

 

「へ~っ!マルに!校長か教頭が動いたのかなぁ。でもその先生は悔しいだろうね。自分が愚かだったと認めたくはないだろうからね。…で、その先生の不満が通信簿に表れているのではないかと言いたいんだね」

 

「そうです。私は提出物もきちんと出したし、テストの点数も悪くないし、授業でも積極的に手を挙げて発言してます。なのになんでこの数字なのか。きっと先生に悪く思われているのかもしれない」

 

ふふ…わかるわかる。お前のそのあふれ出るエネルギー、興味関心の塊、積極性、それでテストも良いのであれば…普通は最高評価だよね~。でも…

 

「そんな話はたくさんあるよ。そんなものにいちいち食い下がってはダメなんだ」

 

私はいつもながらの不本意極まりないテーマについて話をしました。

 

「え?私、言っちゃいけなかったんですか?」

 

「そう。この世の不条理さを学ぶいい機会だったね(笑)

そんなのは学校だけじゃなくて世の中に出たらゴマンとあるから。会社でもそう。上に気に入られた人は出世しやすい。政府でもそうだよね、安倍内閣とかもそうでしょ。論功行賞って言葉知ってる?

 

会社だと、内部にいるのに会社の方針の不満とかを述べる人がいるけどあれもそう。おそらくその人の意見は至極まっとうで正解なんだろうけどさ…、その正義感がちょっと面倒くさい。そしてやがて上から疎まれるんだ。正論はぶつが評価は低いという…。そういう話は社会に出たらた~くさんあるから」

 

「じゃあ先生に言わないで×を受け入れた方が良かったってこと?」

 

「う~ん…まあそれもなぁ…言いたくなるよな…。でも言い方が問題だ。おそらくお前は1回言ってダメで、クラスみんなで再度先生のところに言いに行くとき、『先生っ!』って椅子から力強く立ち上がったんでしょ。

 

『先生の言ってることはいくらんなんでもおかしいです!』とか言って。肩を怒らせながら先生に近づいて。

いや~いいね~勇ましいね~!オレ、そういう人だ~い好き!(ウチのカミさんがそうだった)」

 

「ハハハ、そんなことしてません(笑)」

 

「ウソ!お前は戦闘民族。オレの目に狂いはない。クラスを代表して行動に出たんだ。まずは机を両手でバンッ!と叩いて…、『先生!いい加減に目を覚ましてください』とか言ったんだろ(笑)?」

 

「してません!普通に言いました」

 

「ハハハ、冗談冗談。

でもね…苦情があっても言わない方がいいけど、どうしても言いたいときはこうした方がいい。

 

まずは机バン!じゃなくて、『あの~先生…』と、年貢を負けてもらいたい農民のようにおずおずと言うこと」

 

「机バンはしてませんって(笑)」

 

「そして次が大事。

『あの~おそらく私の方が間違っていると思うんですが一つ聞いてもいいでしょうか?』と言うの。

 

『おそらく私が間違っている』というココ!大事だよ~。自分が間違っている可能性をちゃんと先に言うんだ。

 

多くの人は、あなたが間違っている!と話を持っていくでしょ。あれがいけないの。そんなことされたら向こうは〇か×かの問題に入る前に、まず自己防衛から入るでしょ。私が間違ってる?あり得ないわ!って。

 

そこから自分の理、今回でいうとワークにそう書いてあったからという、か細い理を見つけて自分は間違っていないことを証明しようとするんだ。先生もよく考えたら途中で自分がおかしいことは分かってたんじゃないかな。でも流れからもう引くに引けなくなったんだと思う。

 

別にオレは先生におべっかを使えとかゴマすりしろという話をしてるんじゃないよ。争いごとは避けた方が賢明だという話をしてるの。内申はもらえるならもらっといた方がいいからね」

 

正義のために先生のご機嫌を損ねてまでもテストの2点を取りに行くか…、はたまた一歩引いて内申を取るか。

 

自己の重要感を満たしたいのか、はたまた相手に自己重要感を持たせてあげるのか。いや~まさに人生哲学ですね。