中3授業を終えて、職員室の椅子にクタッとなっているところに、「先生…」と申し訳なさそうに女子二人が現る。
「どうしたの」
体を伸ばし、中空をぼんやり眺める。
チラシの原稿、人事、メール、ブログ…やらなければならない仕事に思いを巡らせつつ、今日の授業を振り返る。
(あの問題…どうしてみんな解けないかな…。というか、なんでみんなもっとワクワクしないんだ?男も女も考えるのはちょっとですぐに分かりませ~んを口にしたり、集中が切れて指の爪をいじくったりする。自分が中学生のときだったら全身の血が逆流するぐらい沸騰してもう周りが見えなくなったもんだけどな。おお~っ!これは難しそうだな!おいしいッ!!先生!絶対答えを言わないでよ!みたいな…)
女子A「あの…あの…」
女子B「え…○○ちゃんから言う?」
「え?なに?」
(なんで今の子たちはあまり燃えないんだ?あの図形問題はおいしいだろうに。…あ、”今の子”とか言っている自分は古臭いんだろうか。そういえばさっきプリント配りで1枚余分に回しただけなのに、リサに「先生はボケが始まったね。老いてきているんだよ♡」って笑顔で言われたな。あいつ…平均寿命の後半戦に突入したオレにその言葉は笑いでは済まされないぞこの野郎。
そういえばこの前、職員の佐藤さんにも言われたな。最近、小さい子を見るときの工藤先生は毎回愛おしそうにしてますよ。好々爺(こうこうや)ですねって。フザケンナ!オレは生まれたての早坂の赤ちゃんを見てもなんとも思わなかったんだぞ。な・ん・と・もね!
オレは情愛と数学を天秤にかけて数学を取ったのだ。愛に簡単に流される愚民どもとは根本が違う。愛ゆえに人は証明しなくなる…。愛ゆえに人は感覚だけで判断するようになる…。愛ゆえに…)
女子A「せ…先生!聞こえてます?」
女子B「数学のこの問題教えてくださ~い!」
「こんなに論理的思考の邪魔になるなら…こんなに人の判断を狂わすのなら…
俺は愛などいらぬ~!
ってなに?
ああ、質問ね
悪い悪い」
「???…ここなんですけど~」
「あ~どれどれ…、ハイハイ。点Pが秒速3cmで動いているってことはx秒だと3xだからここの長さは3xでしょ。そして…」
「あっ…」
「なに」
「そこから間違えた
」
「・・・・・・」
「アハハハ!ならできるかも~!」
「先生、じゃあ、こっちは2xですか?」
「速さが2だからそうなるでしょ。って、お前らね…ウソだろ?」
「なぁーんだ」「アハハ」
「お前らがなんで数学が解けないのか、原因ははっきりしている。お前たち、愛を捨てろ」
「え…愛?」
「そう。お前らは愛の塊だ。だから数学が解けねえんだ。思うに喜怒哀楽を出し過ぎる。
…マシーンになるんだ。感情はいらない。世の中のこと、なんでもかんでも証明しようとして生きろ」
「証明…」
「ハハハ…やっぱりいいや…なんでもない…
」

