<タイトル>

弦楽四重奏曲 第15番 ト長調 D.887

<作曲者>

フランツ・シューベルト

<おすすめCD>

メロス弦楽四重奏団

 

 

カルテット・イタリアーノ

 

 

エスメ弦楽四重奏団

 

 

<解説>

 シューベルトの後期作品の一つで、最期の弦楽四重奏曲になります。

 彼の弦楽四重奏曲といえば、第14番「死と乙女」と、あとはせいぜい第13番「ロザムンデ」が知られていますが、この第15番は知る人ぞ知る名曲のようです。

 批評家・評論家などからはなぜか軽視・黙殺されますが、これはすばらしい名曲です。

 第1楽章の序奏が終わると、ヴィオラとチェロのかすかな刻みの上に、晴れやかなヴァイオリンが乗っかってきます。

 まるで悪魔のうめき声を天使がくすくす笑っているように聴こえ、あたかも地獄と天国を同時に見ているかのようです。

 ここに、ギュスターヴ・ドレの木版画を想起します。

 うつうつとした伴奏の上に、第1ヴァイオリンがせわしなく動き回るさまは、夜の桜の森を飛び回る赤い蝶でしょうか。

 嵐のようなフレーズと、チェロのモノローグが交互に提出される部分も圧巻です。

 何か世界観のようなものがあるように感じ、想像力をくすぐられます。

 第2楽章は、シューベルト先生がうつむきながらとぼとぼと散歩しているイメージですが、突然、ドラマティックな曲調に変化します。

 気分屋の先生らしく、気持ちのゆらぎがあったのでしょうか。

 このあたりには、シューベルトが研究したというハイドンの書法が見え隠れします。

 シューベルトは師であるサリエリから、「ハイドンの真似ばっかすんな!」と怒られたそうですが、ここでは見事に昇華していると思います。

 とにかく、ため息を漏らさずにはいられない名曲です。

 これはもはや、室内楽の域を超えているような気も。

 シューベルトは31歳で亡くなりましたが、もっと長生きをしていれば、ベートーヴェンを超えていたと、彼のファンはよくいいます。

 後期の作品群を聴いていると、本当にそうなのではと、思わずにはいられません。

 不遇の生涯を送った芸術家――といえば、きこえはいいですが、ちょっとかわいそうな境遇の方ですね。

 ああ、フランツ……

 ところで彼の死因は梅毒だといわれます(汗)

 おすすめのメロス弦楽四重奏団は、いい意味で田舎くさく、音楽の方向性にマッチしている感じです。

 カルテット・イタリアーノのほうは洗練されている感じで、2種類録音がありますが、どちらもおすすめです。

 映像で見たいときはエスメ弦楽四重奏団のライブ動画をよく取り出しており、端正に作られた音楽が聴きどころだと思います。