息子の話ではございません。

私の高校時代の話です(たまには軽い話題も書きたくて)。

 

 

卒業した地方の県立高校は、サッカーの強豪校として知られている(ただ今はもう古豪の域に達した)。

 

その日はバレンタインデー。

休み時間に隣の席の男子が、数学のノートに変なくねくね文字を一生懸命に書いていた。

 

「なにそれ…」

「俺のサイン!どう思う??」

「なんかくねくねしてる。読めない」

「サインだから読めなくていいの。あ、これ上手く書けた!」

 

ビリっ。

ノートから1ページを破り、また同じくねくね文字を何枚何枚も書き続けるスポーツ刈りの男子。

 

聞けば、チョコをくれる「俺のファン」に1枚づつ配るのだとか。

 

「喜ぶかちょっとわからないけど、せめてもっといい紙に書いたら…数学のノートって」

「俺が普段使ってるものの一部だから喜ぶんだろうが。それに初めて書いたサインだぞ?有名になったら価値上がるから」

 

確かに彼は当時U17日本代表候補で、地元ローカル番組でもよく取り上げられていた。

いや、しかし、そんなノートの切れ端…

しかもなんか、くねくねしたミミズみたいだし…

 

 

いや、でも喜んでた。

女子たちが、涙を流して喜んでた。

 

部活を終えて校門に向かうと、ちょうどサッカー部の男子たちも帰宅するところだった。ずらりと並ぶ、他校の女子たち数十人。お目当ての選手が出てくると、きゃーきゃーと黄色い歓声があがり、すごい勢いで走り寄っていく。

 

自転車にぶつかってきた女子から「痛い」とにらまれ、思わず謝ってしまったが、なんで私が謝らなあかんのだ。

ここ一応、学校の敷地内・・・

 

女子たちの熱意に押され、動けなくなってしまった私は、カオスと化した正門前であの「ミミズ文字」男子を見つけた。何人かに囲まれ、1枚1枚ノートを破った紙を配っている。

感激してうるうるしてる女の子もいる・・・

 

呆然と立ち尽くしている私に彼は言った。

「ほらー、かっちゃん(わたし)。俺の言った通りでしょ!」

 

一斉に女子が振り向く。

またにらまれたのは言うまでもない・・・

 

「サッカーのまち」と知られる地方で当時、高校サッカーの人気はアイドル的だった。その後、彼はJリーガーになった。左利きのサイドバック。「夢」と言っていた日本代表になることは叶わなかったけれど、14年の現役生活を全うした。

 

あのミミズサイン、ずっと使い続けたのだろうか。

 

 

この時期になると、彼のことを思い出します。

元気かな・・・

 

そういえば、長男は今年もチョコはゼロだった。

小学校ではクラスいち足の速い男子がモテる、という私が子どものころの風習はもう、廃れてしまったのだろうか。