『再掲』無職「に」転生〜この世界に来たらやる気ナシ! | Remember to remember 完璧な自分を思い出すお手伝い

皆様、こんばんは!

無職転生がもうじき終わってしまいそうなので再掲します。


皆様おはようございます!


予告通りやりますw


宇宙元旦とやらが過ぎて結構な時間が過ぎてしまいましたが。




宇宙元旦についてはこちら!




実は指を怪我してブログが書けませんでしたえーん

いや、書けたのですが、親指の先を0.8mm厚ほど削ぎ落としてしまったので親指が使えず面倒であせる



さて、では始めましょうかね。




俺はいつも同じ光景を思い出すー




ある日、オシオヤン王国の王宮では偉大な王、シオン・ィエーの病回復のための祈祷が盛大に執り行われていた。



国中の医師や魔術師達が集められ、各々得意とするメソッドを用いて年老いた王の病に挑んだ。




呼吸が安定しない中で王は横で心配そうに見守る妻の手を取り、語り始めた。



「我が妻アンジェラよ、わしは長く生きすぎたのかもしれんな。」


シオン王は咳き込みながら言葉を続ける。


「山に住むドラゴンを退治し、隣国タルミンと和解してスマーを打倒するために共同戦線を張り、この一帯は平和になった。


しかし、本当にそれでよかったのか?


戦争で死んでいった我が国の民を始め、タルミンや敵国じゃったスマーの民達を救う手立てはなかったものか?


血に塗れた我が剣と魔法を贖う方法はないものかのう…」


「何をおっしゃいますか。

王は自分のために剣を振われたことなど一度もないことはこの私が誰よりも存じております。


自国の民ならず、この世の生きとし生けるもののためにどれだけ傷つこうとも全てを尽くして守ってこられたではありませんか。


あなたは誰よりも偉大な王、シオン・ィエーなのですよ!」



王は微かに微笑むと静かにベッドの天蓋を眺めながら、



「もし生まれ変わることができるのなら、魔法も剣も使わなくてもいい平和な世界で安穏と生きてゆきたい。


その時はアンジェラよ、また我が妻として寄り添ってくれるか?」



と王妃に尋ねた。



王妃は目に涙を浮かべながら、


「ええ、もちろんですとも!

私は未来永劫あなたの妻でございます」


と王の手を握りしめた。



「また会おう…」



王は安心したかのように微笑みながらつぶやくと静かに息を引き取った。



またあの夢か。


前世の記憶なんかどうでもいい。



俺が目を覚まして最初にすること、それはパソコンを立ち上げ、ゲームにログインすること。



10年ほど前からゲームはケータイが主流だが、連絡を取る相手もいないのにケータイなんか持っても意味がない。




適当な時間に起きて眠くなったら寝る。



今が朝なのか夜なのかもよくわからない。


もうそんなことはどーでもいい。


こうやって20年以上死にながら生きているのだから。


気がついた時にはびっくりした。

いきなりベビーベッドに寝かされていたのだから。


やがて成長するにつれてこの世界には魔法もなければドラゴンもユニコーンもいないということを知った。


武器を手に取り戦う必要もこの国に限ってはないことも。


これこそ俺が望んだ世界!

普通の人間として平凡に生を全うできる。



しかし魔法を使えないというのはなんとも不便なものだ。


そのかわりこの世界では科学というものを発達させて魔法を使えない分を補っている。



俺も小学生までは頑張っていた。


たまに咄嗟に呪文を詠唱しても何も起きなかったり、シオヤナイト製の我が聖剣を恋しがって手に入る材料で作ってみたりしたが、それなりに周りと打ち解けて下々のものたちにも慕われて楽しい子供時代を送った。



私立の中学に入り、アーチェリー部に所属したら、俺の弓に勝るものはいなかった。


が、できない奴らの妬みからイジメに遭ってしまった。



当時は中一だったが、「中二病」と呼ばれ始めたのをキッカケに、どんどんエスカレートしていき、ユニフォームが汚されて捨てられていたり。



そのうちその波はクラスにも広がり始めた。



かつての友人やクラスメイト達は自分が同じ目に遭いたくないがためだろうか、俺に陰湿な攻撃をし始めた。


弁当の中に虫を入れられていたり、コーヒー牛乳をぶっかけられたり、教科書をぐちゃぐちゃにされたり。


もちろん食事の時も一人だし、俺に話しかけてくる奴なんて一人もいない。


しかしこの程度で屈する俺じゃない。

こっちが弱みを見せたらこの手のイジメはさらにエスカレートするだろう。


SNSでの誹謗中傷など痛くも痒くもない。


実体のないところでごちゃごちゃ嘘八百を書き込まれても俺の前で面と向かって言えない弱虫どもが何を抜かすか。


わかってる奴はたとえ心の中だけでもきっと俺に味方してくれているはず。



やり過ごせばいつかは終わるだろうと思っていた。


しかし…



イジメが始まって数ヶ月が過ぎたある日、俺のカバンが刃物でズタズタにされていた。


このカバンは父親が入学に際してプレゼントしてくれたものだ。


俺にとっては何よりの宝物だった。


周りを見回すとニヤニヤしている連中がいた。



俺はキレた。


これまで我慢していたものが一気に吹き出してきた。


気がついたら俺はそいつら全員を叩きのめし、大怪我を負わせていた。



いくら何でもおふざけが過ぎる。


俺をいくら卑しめたところで構わない。

しかし俺が誰よりも大切に想ってる両親を貶すことは俺にとっては万死に値することなのだ。


身をもって自らの愚行を思い知れ!


俺は何事もなかったかのように机に座った。


周りは大騒ぎになっていたがそんなことは知ったことじゃない。


担任の先生が血相を変えて飛んできた。



俺は職員室につれて行かれ、校庭には救急車とパトカーが来た。


俺は担任、学年主任、教頭、校長、警察に事情を説明した。



しばらくすると両親が来た。



「先生から話は聞いた。

しかし怪我まで負わせたのはやり過ぎだ。」


向こうの両親も間も無く到着。


一方的に俺を責めた。


「僕はこれまでずっと陰湿なイジメをあなた方のお子さんから受けていました。

コッソリやれば何をしても許されるとお思いか?


このまま社会に出て奴らが同じことをしたらあなた方はどう責任を、取るつもりなのだ?


はっきり言って社会の害虫を野に放つようなものだ。


今回の件で懲りたら子供の首に縄でもつけて改めてうちの家に詫びにきなさい。」


私がこう言うと向こうの両親達は激怒。


何やらギャーギャー喚き立てていたがこちらは馬耳東風だ。


その後俺は警察で事情聴取。


精神科の鑑定も受けた。


結果俺は沙汰があるまで停学となる。


例え今は不遇でも正義は必ず勝つのだ。


人間は皆良心を持っている。


学友達も俺を弁護してくれるに違いない。


そう信じていた。


数日して学校側から連絡があった。



俺はなんと退学。


新聞沙汰になっていた!


マスコミがうちにも取材に来て連日連夜この一帯を混乱させた。


テレビには学校の様子が映し出され、深刻な表情を「作った」特派員がクラスメイト達にインタビューしている。


クラスメイト達は俺のことを言う時は決まって、



「ちょっと変わってて危ない感じがする子でした。」(音声は変えてありますw)



被害者と呼ばれる外道共には、



「ものすごく良い子達だったのに(泣)」



いやいや、被害者は俺だから。



転生前、俺は王だった。



俺をハメようとする奴らは確かにいたが、必ず味方がいた。

魔法を用いて真実を暴くこともできた。


しかしこの世界では俺は王でもなければ魔法なんてそんなものはない。


結局情報を操作したものが勝ちなのだ。


力なきもの、虐げられているものは強いものに従って媚を売るしかないのだ。


正義なんてあったもんじゃない。


その瞬間俺の中で何かが壊れた。



その何かが壊れたら…

外に出るのが怖くなった。


それから15年以上、俺は一歩も外に出なかった。


心配する母親をよそに、父親は俺を信じてるとドアの外から毎日声をかけてくれた。


お父さん、ごめん。

本当に怖くて外に出ることができないんだ…


毎日の食事はきちんとドアの前に置かれていた。


風呂だけは時々こっそりと二人が寝静まってから入っていた。


でも鏡を見るのが怖い。


次はと向き合うのが嫌だから。

決まって入浴する時は鏡を隠した風呂に入った。



月に一回のお小遣い、


そして…

年に一回の誕生日の日にはケーキとメッセージカード。


罪悪感が俺を苛む。


恐怖で動けない自分に虫唾が走る。


イライラが募る。


何かを壊したい衝動に駆られるが親に心配をこれ以上かけたくない。


それでも動けないんだ…


かつては賢王、勇者と讃えられた者の成れの果てがこれか。


もしかしたら俺は精神病で、この記憶は俺の都合のいい妄想なのかもしれない。


自殺も考えた。


こんな俺が生きているだけ無価値だ。


しかし死に方がわからない、いや、正確には死ぬことも怖いのだ。


そうして俺は生きながらにして屍に成り果てた。


パソコンでネットを徘徊しているとオシオヤンやシオヤナイトに関する記述を見つけはしたが、記述は全てデタラメ。


本当のシオヤナイトは黒々としていて研げば七色に光る。


スピリチュアルとやらにハマった詐欺師が書いた荒唐無稽な文章だ。


俺が前にいた世界の情報はこの世界にいくらかはファンタジーや宗教、そしてスピリチュアルとやらの中に紛れ込んではいたが、全てねじ曲げられて嘘ばっかりだ。


それでも俺が元いた世界の単語はいくらか俺の心を慰めた。



そんなある時、パソコンを立ち上げてニュースを適当に見ていると、地元のご当地アイドル「エンジェルリンク」が特集されていた。


アイドルなんかには興味なかったが、センターの子を見て思わず目を疑った。


アンジェラ!


なんと俺の前世の妻、アンジェラと似ている、いや、瓜二つの女が!


きっと前世での約束を果たすためにこうして人目に留まるようなことをして俺を探しているに違いない!


俺の目頭は熱くなった。


アンジェラ…

愛しい我が妻よ、お前に会いたい!


アンジェラとの思い出が一気に蘇ってきた。


いつも笑顔を絶やさず、俺の横で支えてくれたアンジェラ。


今でも4歳の頃に初めてアンジェラと出会った時のことを思い出すと胸が熱くなる。


そう言えば王宮でよくアンジェラは歌を歌っていた。


彼女が歌い出すと皆それぞれ手を止めて聞き入っていたものだった。


なるほど、それでアンジェラは今世でも歌を歌って俺を探しているわけか。



エンジェルリンクはここから電車で二駅先の劇場で月曜日、水曜日、金曜日の15:00〜16:00と18:30〜20:00にライブとサイン会をやっているようだ。


パソコンの曜日を見ると今日は金曜日!


こんなところで引きこもっていていいんだろうか、いや、いいわけがない!


俺は風呂場に行き、これまで怖くて仕方がなかったこと、そう、ついに鏡と向き合った。


15年以上ロクに歩くことさえしなかった俺はすっかり肥えてブヨブヨになっていた。



俺はこれまで邪魔にならない程度に適当にしか切らなかった髪を切り、髭を剃った。


かつての俺は見る影もなく、毛髪は薄くなり、デブで青白くなってしまったが、体型はトレーニングすればすぐ元に戻るだろう。


今から出たら15:00のライブには参加できる。



階下にいた母親は大層驚いていたが、俺には説明している時間がない。


「お母さん、出かけてきます。」


母親は涙を流しながら叫んでいた。


「いってらっしゃい!」


と。


駅まで歩くのがこんなにしんどいとは思わなかった。


十数年全く外に出ていなかったせいか門を出てすぐに息切れして太陽の眩しさにクラクラしながら何とか駅にたどり着いた。


電車を待ってる時の空気は美味しかったが、電車に乗ってからが大変!


よくこんなものに乗って学校に通ったものだと我ながらあの日々を思い返して褒めて遣わしてやりたくなった。


何とか会場に着いた頃にはもう身体中から力を使い果たして吐きそうだったが、何とかほうほうの体で時間には間に合った。


狭い会場には客はわずかに数人…


演奏は録音されたオケに合わせてエンジェルリンクのメンバー達が歌うというお粗末なものだった。


安っぽい衣装にあまりにわざとらしいMC、そしてお粗末な歌詞を必死に歌う彼女たち。


歌唱力もお世辞にも褒められたものではなかった。


「みんなー!

今日は私達エンジェルリンクを観に来てくれてありがとう!


次でラストナンバーなんだけど、新曲だから気に入ってくれたら嬉しいな!


タイトルは『リーンカーネーション』!」


歌詞はどこにでもありそうなベタなラブソングだったが、


「あなたに会うためここにいる」


という歌詞が俺の心を捉えて離さない!


アンコールが終わり、余韻に浸る暇がないままサイン会が始まった。


サイン会ではCDを買い、CDにサインをしてもらった後握手をしてもらえるようだ。


俺はもちろんアンジェラのところに並び、ていうか客は全員アンジェラのところに並んでいた。


俺は一番最後に回り込み、ついに俺の番が!


「今日はお越しいただき、本当にありがとうございますぅ〜!」


アンジェラは「リサ」と名乗っていた。


「あの、ひ、ひと、ひと…」


言葉がうまく出ない!

10年以上誰とも口を聞いてなかったのだから仕方がない。


そう言えば前の世で20年間独牢に囚われていた男に面会した時があったが、あの男も口をきけなかったな。


「リサ」は怪訝な顔で俺を見ながらサッと手を握って礼を述べるとさっさと立ち去っていってしまった。


俺は気が気でなかった。


想いを伝えられないままここで終わるのか?


それは嫌だ!


せっかくまた出会ったんだ。

もう離れたくない!


気がついたら俺は会場の出口で「リサ」と名乗っているアンジェラを出待ちしていた。


しかし今出ていったところで話は出来ないだろう。

とりあえずアンジェラの動向を探ることにしよう。

まもなく「リサ」はマネージャーと目される男と共に出てきた。


腕を組みながら。


そのままマネージャーと徒歩でラブホ街へと向かう。


俺はアンジェラの前に立ち塞がった。


思い出してくれ、アンジェラ!


「なんだよ、この色白ハゲブタ!

邪魔してんじゃねーよ!

マジキモいっつーの!」


俺を驚かせたのはこの言葉がマネージャーの男ではなく、アンジェラの口から出たということだ。


「あ、あ、あ、…

アンジェラ!」


あまりの驚きが脳と舌を活性化したのだろう。

名前を呼ぶ事ができた。



「はぁ?

あんた誰と間違ってんの?

それ、もしかしてゲームのキャラかなんか?

病院行って二度とでてくんな!」



このリサの言葉に俺は何も言えず、ただ立ち尽くすだけだった。


横にいた男がどんな顔をしていたか、それも思い出せない。


ただ、アンジェラだと思っていたのは俺の思い違いだったというあまりに残酷な現実にこの世が止まってしまったかのように感じた。


実際は俺が固まっただけなのだが。


どこをどう歩いたかさえ覚えてないが、俺は家に戻って来ていた。


玄関をくぐると両親が揃って笑顔で出迎えてくれた。



「おかえりなさい!」



俺はどう振る舞えばいいのだ!

絶望に打ちひしがれているのに二人とも俺が外に出たことを喜んでいる。


一体何のイタズラだ!


何やら肉のいい匂いがする。

きっと俺のために母親が愛情込めて焼いてくれたのだろう。


俺は逃げた。

外はもう嫌だ。


この世が自分だけの世界だったらどれほどいいか。

誰も俺をわかっちゃくれない。

こんなんだったら一人で餓死したほうがよっぽどマシだ!


俺は…

部屋に篭るしかないのだ…


俺の部屋の前には冷えたステーキが置いてあった。



それから数日後のこと。

不幸は続くもので父親が事故で死んだ。

親戚一同がうちに来たが、俺はさらに逃げた。


どの面下げて親戚と顔を合わせろというのだ。


お父さん、ごめんなさい…

ダメな息子でごめんなさい…

こんな親不孝な息子、欲しくなかったでしょ?


本当にごめんなさい。


俺は布団の中で泣くしかなかった。


四十九日が過ぎた後、事件は起こった。


眠っているといきなりドカンとすごい音がした。


私が慌てて飛び起きると母親が大ハンマーを手にドアをぶち破って部屋に侵入してきた。


「お父さんがね、お父さんが死んだのよ!」


母親は大ハンマーを捨て、包丁を手にしていた。


「おあ、おあ、あん、おいういえ!」


お母さん、落ち着いて、と言おうとしたがダメだ、言葉が出ない!



「お父さん最期まであなたのことを頼むって、あいつは強いやつだから必ずちゃんとなる、お父さんお前のことを守ってやれなくてごめんって言ってたのよ!」


母親は前世で対峙したグールよりも醜悪な顔で俺に詰め寄る。


体が思うように動かない!


「お母さんはお父さんに会いたいの!

もう疲れた!

生きてても仕方ない!


だから…

だから一緒に死んでお父さんのとこにいこ!

もっかい三人で最初からやり直そ!」


俺は…

何で生きてんだ?


あんなに俺を大事にしてくれた母親を限界まで追い込んだのは他でもないこの俺だ。


何がオシオヤンの王シオン・ィエーだ。


かつての栄光がなんだ。

何も出来ずにただ怖がって引きこもってるニートこそ今の俺。


あれだけ俺を大切に育ててくれた父親に罪悪感を抱かせたまま死なせて、いつも包み込んでくれた母親を悲しませて…


母親が死ぬことはない。

こんな辛い気持ちのまま死なせるわけにはいかない。


俺が死ねばいいんだ。

もう…

やめよう。


「お母さん、包丁を貸して。

お母さんが俺を殺すという罪を背負うことはないんだ。」


俺は母親の手から包丁を取った。

急に気持ちが澄んで冷静になったら声が出た。

最期に声が出てよかった。


これでこれまでのことを母親に詫びる事ができる。


俺が死ねば全部丸く収まる。


しかしその前にまずは母親に詫びなくては。


俺が話している間、母親はただひたすら泣き続けた。


話し終えると俺にはさらにわからないことが生まれていた。


果たして俺が死ぬ事が母親を助けることになるのだろうか?


それが罪滅ぼしになるのか?


死にたくないわけではない。


こんな役に立たない使い古しの命など何の未練もないしいくらでもくれてやる。


ゴミ箱に捨ててくれて結構。


しかし俺が死んだ後、母親はどうなる?


一人で夫と息子を失った悲しみを背負いながら一生生きていくのか?


「お母さん。」


俺は母親に一つ提案を思いついた。


「俺がずっと逃げてたせいでお父さん、お母さんにはすごく辛い想いをさせてしまったね。


許してください。


俺の命ならここで果ててもいいんだけど、そんなことしたらお母さんのこれからの人生がもっと辛くなっちゃうと思うんだ。


お母さんにはこれからお父さんの分も幸せに生きててほしい。

だからさ…」



俺は思い切ってこう言った。


「お母さんの悲しみをを俺に拭わせてよ。

俺、もう逃げるのやめてお母さんが笑顔になれるように頑張るから。」


母親は大声で泣き崩れた。


そうと決めればやることは決まってる。


俺は散髪に行き、就職先を探した。


中学もロクに行っていない俺を雇ってくれるところなんてそうはないだろう。


しかし探せば必ず見つかるはずだ。


「探せ、そうすれば見つかるであろう。

求めよ、そうすれば与えられるであろう。

門を叩け、そうすれば開けてもらえるであろう。」


何とか清掃業者にバイトで就職が決まり、慣れない作業とはいえ、王宮で掃除番がしていたのを幼い頃に見ていたから覚えは早かった。


母親にお願いして通信制の高校を受験し、春からに通うことになった。


35歳にして高校生だなんて笑えるが、始めるに遅いということはない。


父親は立派な男だった。


かつて王であった俺がいうのだから間違いない。


この世で父親の名に恥じぬ男になる事、それが俺の目標だ。


そして…


俺はネットで自分が前世で体験したことを小説として書くことにした。


これが意外に評判が良く、何と出版社から本を出したいというオファーをもらったのだ!


出版社との話し合いで俺は驚いた。


中学の時のクラスメイトがそこにいたのだ!


羽咲詩織。


当時はポッチャリしてどこか冴えない暗い感じの子だったが、今ではすっかり綺麗になっていた。


話し合いの後の会食で彼女は言った。


「あの時は先生、いえ、白瀬君の味方になれずにごめんなさい。


怖かったの。


スクカの最下層だった私がもしも白瀬君の擁護なんかしたらどうなるか、あの時は保身しか考えられなかったの。


だからずっと後悔した。


私だけじゃない、クラスのほとんどの人達がそうなの。


今でも同窓会でみんな白瀬君のことを後悔してるって話してるの。


仕事でいい小説を探してたらネットで白瀬君が小説を書いてるって知ってビックリしたんだよ。


あれって時々白瀬君が楽しそうに話してくれてたアレが元ネタだよね?」


俺は羽咲に何と言ったらいいか分からず黙っていた。


しかし、俺が悪くないことを分かってくれていた人がいて、しかも沢山、何より覚えてくれていた事が嬉しかった。


「羽咲。」


俺が口を開くと羽咲はビクッとした。


そういえば羽咲は昔からこうだった。


「みんなを集められるか?」


羽咲は怯えながらも


「わかった。」


と承諾してくれた。


「みんなに言いたい事がある。」


みんなに会うことになっている日、俺は就職の面接以来のスーツを着た。


父親のスーツ。


集まった人数は思いの外多く、ていうかとんでもないくらいに多く、100名を超えていた。


会場のセッティングとお金は出版社が経費ということで羽咲が掛け合ってくれたようだ。


前世ではこれくらいの人数どうということはなかったが、今世ではこれだけの人数の前で話すのは初めてなので流石に緊張した。


「みんな、集まってくれてありがとう!」


俺はマイクを使って話し始めた。


「羽咲から話は聞いた。

俺は正直この20年、死ぬほど苦しみを味わった。」


会場はシーンと静まり返って重い空気が重力を3倍にも四倍にもしているかのようだった。


「でもな、俺は恨み言を言うためにここにいるんじゃないんだ。


みんなに『ありがとう』って言うためにここにいるんだ!


俺のことを覚えていてくれて本当にありがとう。

俺はみんなのことを許す。


みんなも俺のことを思い出すたびに辛かっただろう。

羽咲から色々聞いたよ。


だからもう終わりにしようや。


俺はこうして生きてるし、今は毎日大変だけど充実した素晴らしい日々を過ごしている。


だからみんなが黒歴史と思ってる思い出を今日この場で塗り替えようや、それを言うためにここに来た。


やっちまったことは変えられない。

でも黒歴史も素晴らしい未来へと繋げたら黒歴史は栄光の一歩に変わるはずだろ!」


ふむ、我ながらなかなかの演説ではないか。


おっと、前世に引っ張られるところだった。


皆が俺のところに押し寄せて何度もごめんなさいやありがとうと他に言葉を知らないのかと言いたくなるくらい同じ言葉を繰り返していた。



結局俺は、自分の世界に一人で篭ってただけだったのだ。


確かにヒキオタニートだったのだが、一番の問題は自分の世界に閉じこもって出ようとしなかったこと。


前世が何であろうと一切関係ない。


来世に期待してもいい事なんかあるはずはない。


何故なら来世は今世にかかっているのだから。


前世での俺の失敗、それは後悔を残したこと。


やり直しはどこからでもできる。


だって「今」があるのだから。

今を精一杯生きられない奴が未来に繋がるはずがない。


今を生きよう。


精一杯生きよう。


それから数ヶ月が過ぎた。


まもなく俺の新しい小説、



「ヒトですが何か?」



がアニメ化決定して放映される。


天界で神になるために厳しい修行をしていた主人公が何故か人間に転生させられてしまう異世界転生ものならぬこの世界転生ものだ。


今日は主役のヒト子のCV兼エンディングを歌ってくれる無機紅(むきあかい)さんと打ち合わせ。



そして俺は…


今羽咲と付き合っている。


もしかしたらアンジェラは…


いや、よそう。


過去は過去だ。

今の俺の彼女は羽咲詩織、この女こそ俺の愛する女性だ。


今を大切にするってこういうことなんだなぁ…



「生きろ!」



終わり