#538【neko24】:小さな自然観察会㉔(2024.04.26) | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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お花見の危機 ― クビアカツヤカミキリ ー

 

 

 3月に始まった桜前線も日本列島を北上し、そろそろ終点に到達する頃である。また、カンヒザクラやカワヅザクラから、ソメイヨシノ、ヤマザクラ類、ヤエザクラ類へとバトンリレーしてきたサクラの季節もそろそろゴールが見えてきた。今年は、サクラの開花まで待つ時間も長く、長くサクラの季節を楽しめた感がある。私たちにとって春の訪れになくてはならないサクラとお花見であるが、数十年後にはお花見ができなくなってしまうのではないかという危機がある。

 

 新聞でも多く取り上げられていたが、特定外来生物の一種「クビアカツヤカミキリ」という昆虫の食害により、サクラが枯死してしまう被害が広がっているという。被害が確認されているのは13都府県であるが、地域によってはかなり深刻な被害となっており、分布域の拡大と被害の拡大が大変心配されているという。

 調べてみると、被害があった自治体では、啓発パンフレットや駆除の手引きも多く出されており、被害拡大を防ぐためにクビアカツヤカミキリを見つけた場合に懸賞金が出されるケースもあるという。それだけ防除を急いでいるということである。 

 

   クビアカツヤカミキリという昆虫は、中国、朝鮮、ベトナムなどに分布するカミキリムシの一種である。その名の通り、前胸の一部が赤く体全体は黒く光沢がある。一匹の雌は、300から1000個の卵を産み、これは、在来のカミキリムシの10倍ほどの数である。幼虫は、1~2年材を食い荒らすために木が枯れてしまう。サクラ、モモ、ウメなどのバラ科の樹木(生きている樹木)を加害するので、農作物の被害も心配されている。

 

   

   クビアカツヤカミキリ           幼虫       幼虫が侵入した痕

 

       

 

   クビアカツヤカミキリが日本で初めて確認されたのは2012年、愛知県名古屋港であるそうだ。2018年に環境省の特定外来生物に指定された。産卵数が多いこと、外来種であるために天敵(ハチの一種)が日本にはいない、サクラ、モモ、ウメなどが多いことが、クビアカツヤカミキリにとっては好都合である。成虫の移動範囲は2~3㎞であるのであるが、車などについて遠距離を移動するために分布域が飛び地のように広範囲に及んでしまう。下図の11都府県に加えて、2021年神奈川県、2022年兵庫県でも確認されている。

 

        

 

   サクラの名所である奈良県の「高田千本桜」では、市が重点的に管理する450本のうちの3割に当たる150本が被害にあっていることが確認されたということだ。今年度予算の中に570万円が盛り込まれ、薬剤を幹に注入して幼虫を駆除する計画があるということである。

        

       

   根本のフラス(木くずと糞など)        伐採されたサクラ並木

 

   感染症でも虫害でもその他の害でも、被害が目に見えるようになってしまってからでは対処・駆除するのが困難になり、人手や薬剤等その他も対策費もかかる。幼虫に入られてしまった場合、木に薬剤を注入して駆除する方法もあるが、一番確実なのは伐採処理する方法だという。そうなるとサクラ並木はなくなってしまう。実際、伐採された場所もかなりあるようだ。

 

   手遅れになる前に、とにかく早期発見が大切とサクラ保存にかかわる関係機関によるパトロールや樹木をネットで覆うなどの予防に加え、自治体は様々な方法で、市民に呼び掛けている。早期発見するには、市民に関心を持ってもらい監視の目を増やさなくてはならないという危機感が感じられる。サクラと近縁のモモやウメなど果樹栽培にとっても深刻な問題であるため、成虫を発見した者に懸賞金を出す例もある。

 

             

 

   人や物の移動のグローバル化に伴い、これまで数多くの外来生物がもたらされてきた。今では、外来生物であることをすっかり忘れられてしまっている帰化生物も多い。生物は、元々この地球上で生存競争を繰り広げながら分布域を広げたり、その土地にあった進化を遂げたり、共生関係を結んだりしてきたものである。ただ、これまで何億年もかけて少しずつ変化してきたこれまでと違い、移動の距離も速度も桁違いの変化の速さである。移動の速度が遅ければ、天敵もそれに付随して移動することもできるであろう。

 

 また、変化がゆっくりであれば、耐性を持ったものが現れたり、適応して生き延びたものが亜種として進化を遂げたりする可能性もあろう。ところが、現在の移動距離や速度にもたらされる影響と変化はあまりに急激であるため、被害が大きくなり種の存続が危ぶまれることになる。在来種の存続危機となってしまう。

 

 これまでに、ヒアリやアルゼンチンアリ、セアカゴケグモなどの侵入が問題になり水際対策が注目されてきたように、港湾、空港などでの防疫の重要性を理解し推進し、私たちの自然界を見る目(意識)を鍛えなくてはならない。

 

 来年も再来年も10年後もサクラの花見はしたい。

 さて、サクラの次は、ツバメの巣ウォッチングにカルガモの雛の成長を楽しむ季節である。

 

                

                      4月24日にデビューしたカルガモの雛たち

 

                   

         おかあさん ・・・   まって まって ・・・・・・

                  

                                neko記