枕投げ合戦が始まるのか。好きな女子を発表し合って盛り上がり、最終的に揉めて乱闘が始まるのか。左右を男子高校生に挟まれた僕は戦慄していた。位置的にレフェリー、審判行司のポジション位置である。
「アウトッ!」
数年前、草野球の試合で一塁の塁審をやった事がある。暑くて堪らない真夏の午後だった。うだる暑さに半分意識は朦朧としていた。牽制球なんて全然見ていなかった。ヘッドスライディングで戻ったランナーに一塁手がタッチすると同時に鋭く声を上げる。僕は反射的に親指を立て右腕を空中に突き上げていた。
「アウトオオオーッ!」
自分でも驚く程の大声で叫んでいた。ランナーは「嘘おーっ」と頓狂な声を発し、僕を睨み付けた。直視に耐えられず目を反らす。だって全然見ていなかったから。一塁手につられて叫んだだけである。同じく審判をしていたチームの先輩に「あれセーフっすか」と聞くと「知らん。でもお前がチームに入って一番のファインプレーぜ。暑すぎやろ。さっさと終わらせよう」
審判は気が重いため、僕は雑魚寝の和室を離れ、デッキで時間を潰す。うえっぷ。船酔いの症状が出る。残っていた酔い止めシロップを慌てて口に放り込む。突っ伏して寝たい。仕方なく消灯している和室に戻る。高校生たちは全員静かに寝ている。時たま控え目な携帯の着信音が聞こえるだけである。きちんと統制が取れている。戦前の日本軍のよう。知らんけど。僕が高校生だったら騒いでるに違いないだろう。島の子達は慣れているのか、教育されてんのか、僕が物音立てたら「おっさん、うっせーよ」と逆に叱られそうである。飴を舐めながら毛布を被った。
職場の同僚達が何故か皆学生服姿で教室に集められている。教壇にまだ二十代の男性スタッフが立つ。顔面から靴の先まで全身に大量のお札を貼っている。心霊漫談を披露する。面白くもないし怖くもない。第一、下を向いて小さな声でぼそぼそ喋るからなに言ってんのかさっぱりわからない。終わったようで疎らな拍手が起きる。二十代スタッフは恥ずかしそうに俯いたまま自分の机に戻る。「いい加減にしてよおーっ。またお前のせいでえーっ。こっちがどんだけ迷惑したと思ってんのよおーっ」年嵩の女性社員が若い女子社員の茶髪を後ろから掴んでそのまま床に引きずり倒す。修羅場である。起き上がった若い女子社員は「うるせーよ。ばばあ、がよ」みたいな反抗的な目つきで睨む。ゼエゼエ言いながら年嵩の女性スタッフは目の前の席に座り振り向いて、僕の隣に居た男性社員に向かって「あなたも気をつけなさいよ」と言う。僕とは全く目が合わない。こいつは無能だから何言っても仕方ない。無視。そんな感じを受けて、僕は悲しいなあ、辛いなあ、と思う。
目が覚めて携帯を覗くと午前2時40分。変な夢だった。夢占いではどんな結果が出るだろうか。そのまま寝る。もう夢は見なかった。
アナウンスが流れてデッキを降りてエレベーター前で待機する。オートバイを停めている場所の前の扉は入室禁止の鎖が張られている。船員が立っている。関西弁のおっちゃん二人組みがやって来る。船員の制止もなんのその「もう入っててええやろ」鎖を潜ってずんずん進む。僕も「入っていいんですか」と船員に聞くが無言で手で制される。なんでやねん、おっさん入っとるやないかい、なめとんのか、ワレい、と関西弁で思うが大人しく待つ。まあ先に入っても特に何も変わらない訳で。タラップが降りて問題が発生する。オートバイの向きと反対だ。後ろだ。正面はコンテナが積んである。Uターンしなければ出れない。勿論、おっちゃんが船員に言う。
「これ、出られへんで。バイクでかいねん。Uターン無理や。あんたら入れて大人4人がかりでも動けへんで。どないせなええねん」
コンテナを降ろしてから出るらしい。量が多いから15分くらい時間がかかるのだと。
「兄ちゃんのバイク、俺らのんと比べりゃ軽いから、押したらUターンいけるやろ。おっちゃん押すから先に出えや。ほな、行くで」
結論として関西弁のおっちゃん二人は、良い人だった。圧は強いけどカラッとした性格の持ち主だ。礼を言って手を挙げてタラップを降りた。真冬に戻った。港の誰も居ない受付所で冬用の装備に着替える。後は、高速道路に乗って帰るだけだ。オートバイで高速に乗るのは初めてだった。
