雨に打たれて、歩いていく。国道沿い、僕らの足跡。路肩に伸びた雑草が足に当たっていた。低く垂れ込めた灰色の雲を見つめて「まるで僕たちのようだね」と先輩 は呟かなかった。先輩は半ば朽ち果て今にも崩れそうな店を真剣な眼差しで探しているらしく殆ど無言だった。「死にそうなラーメン屋に行かないか」という提案に僕は断固としてNOを突きつけた。僕はNOと言える日本人だったのだ。
「まっとうだなあ。まともな店だな。どうするカウボーイ?」
広い駐車場に純和風な外観、元活魚卸の経験をうんぬん、新鮮な刺身、寿司がなんたら、壁に非常に魅力的な文言が並べられている。僕は、ここにしましょう、ここがいいのです、と即答した。奢りで寿司を食えると踏んだからである。だって回る寿司以外自分一人では恐ろしくて行けないんだもの。
其処は、福岡県朝倉郡筑前町高田1910-1「吉之助」さんだった。
「上にぎり」1400円を注文した。一人前を二人でシェアである。
「イクラ食っていいっすか」
僕は己の食欲を、極めて判然たる直線的な言葉遣いで表現した。先輩は鷹揚に、いいよ、と言ってくれる。普段チェーン店で食べるそれより表面にむにっと張りがある赤い粒々が、口の中で弾けた。赤い実が、弾けた。堪らない感触だった。それから僕は言った。
「ウニも食っていいっすか」
身がねっちょり柔らかい。なんでこんなに柔らかいんですか、本当に新鮮なんですか、学級委員の口調で先輩に訊くと、青魚は大体そういうもの、と少し呆れていた感じだった。
定番の一品でビールとの相性が抜群だろう。きっと。まあ僕の場合はウーロン茶であるから詳しくは分からないのだ。
僕は海産物を満喫した。ポケットのコインを集めて端数だけを先輩に手渡し、精算を済ませて貰う。店を出ると、雨。「行けるところまで行こうか」と先輩は呟かず、僕たちは再び甘鉄 に乗った。JR基山から甘木鉄道、西鉄甘木線で久留米に戻る横断レールハイクの旅に、やらせは無縁だった。


