カウンターの隅っこ、何やら一人の貧相な男が婦人店員に向かって、不服気な声を出しているのが聴こえる。燦々と陽光が照り付け、白く薄い雲が青空にたなびく盛夏の昼前の事であった。男は金をあまり持っていないのか、単に小食なだけなのか、ポークカレー3辛を注文し、ライスを少しだけ残しているが、白い皿は殆ど片付いているようだ。男の正面に置いてある福神漬けの瓶は中身がごっそり減っている。食に対して意地汚い性根の持ち主なのだろう。きっとしょうもないクレームをつけているのに違いない。隣りに座ったうら若き乙女や、テーブルで大股開きで週刊誌に目を通す作業着姿のタフな男どもも、こっそりやり取りを窺っている様子である。その男は焦りと絶望の感情がブレンドされたような悲痛な表情を晒している。はは、おもろ。周囲の客たちは遠巻きに耳を澄ます。
諍いは現場で起こっていた。其処は会議室では無く「ココイチ
久留米上津店」だった。
「いえ、だって苅原店でも東櫛原…」
「それは昔はそうでしたけど、今は変わって…」
その時、別の婦人店員がカウンターの奥から、ちがう、と鋭い声を発する。続けて、男と対峙する店員に対して、大丈夫、大丈夫、と手招きする。ふう、ため息交じりに男の表情に安堵の色が浮かぶ。
まあ、紛らわしいと言えば紛らわしい。例外と言えば例外だ。カウンターに貼られている紙を読んだだけでは勘違いしても仕方ない。婦人店員の云うとおり、基本的に追加カレーソースは、有料なのだ。
ただし。ここが例外規定だ。ライスが余った場合に限り、おかわりルーは無料なのである。無料でおかわりソースを強請った男の申し出は、正当な権利なのだ。
いつもより、おかわりルーの量が多い気がするな、相手も気まずかったのかな、こっちだって恥ずかしかったけどね、浅い泉のようだね、鼻水と埃が器官の中で固まった物くらいな大きさのポーク肉が中心に配置されていて美しいよ、満足気に残った、いや残したライスを頬張っていた男は、実を言うと他ならぬ僕自身である。食に関するいざこざはヒートアップするな、と思って。そんな夏。
CoCo壱番屋 久留米上津店 (カレーライス / 荒木駅、南久留米駅、久留米高校前駅)
昼総合点★★★☆☆ 3.7

