「うまかろうが!」
カウンター正面、百円ライターを片手に握り白髪角刈りで目が据わった親爺から唐突に発せられた言葉に、俺の身体はびくんと震える。
(…ええと、茶褐色のスープは一口目は苦いな、と思ったが食べ進めると、臭みが無く、脂少な目なあっさり系で滋味深いラーメンであるよなあ。昔懐かしザ・豚骨ラーメンといった趣きで。叉焼が肉厚で手作り風な温かみを感じる味付けだなあ。長浜とはソーメンみたいな極細麺を想像したが丁度良い塩梅に固さを残した細麺で歯応えがあり噛む喜びを味わえますよ)
脳裏に過ぎるテキストを俺は声に変換することが出来ない。ただ短く、うまいっす、とだけ答える。
「アンタ、どうせ馬鹿舌やろうもん。味やらわからんめえもん」
俺はただ、たはは、と本物の馬鹿みたく笑っていた。他に取るべき行為がわからない。
「久留米ラーメン?ギトギトば好いとるとか。くいーさかもんなあ。なら風呂に入りよらんごたるおなごば抱きよるとやろう」
それには、はっきりNOと告げる。汚ギャルを好むのは同期のM氏であって、俺では無い。きったねえ若いギャル、なっげえ爪つけとって睫毛が重そうな、それで性格悪い奴、そげんかとば矯正すんのが最高、酔ったM氏は赤ら顔で心底楽しそうに語っていた。で、それはラーメンと何の関係も無い話だ。
「替え玉は?」
目の前で聞かれて断る事が出来る俺では無い。お願いします、と応じる。
これが長浜か。平網から器に直接投入された麺は、中心に固い食感を残している。粉っぽくぷつぷつ歯切れ良さを味わえるカタメンだ。
「ちょっと辛うすっか」
親爺がタレを数滴注ぐ。一気に平らげ何も残っていない器の底を見た親爺が、うまか証拠たい、と得意気に胸を張る。
「30くらいやろ。長男やろう」
なんでわかるんですか、細木か江原か、俺は驚嘆する。
「ぼさーっとした顔しとるやんか。大体長男たい」
流石に九州一の繁華街中洲で35年という長期間に渡り、屋台をやってきた男だ。人を見る目が違う。素直にそう告げると、親爺は満更でもない柔和な表情を浮かべる。
5月にオープンしたばかり小郡市祇園1-15-13「ラーメン居酒屋 あきちゃん」は店主の親爺が強烈だった。ラーメン修業を15年、中洲冷泉公園で屋台を35年、合計50年をラーメンに捧げてきた人生らしい。あきちゃん以外でうまいと思うラーメン屋は、と質問してみる。
「ウチが断トツで一位たい。二位とはかなり差が開いとるな」
聞くだけ無駄だった…。一見さんの俺なのだが親爺は何故か、ウチで働くか、店を継ぐ気はないか、二代目にならねえか、ラーメン修業して店を買い取らねえか、と誘ってくる。若い奴に片っ端から声を掛けているのだろうか。久留米ラーメン店にしていいですか、と冗談で返したら親爺の顔が少し曇った。
また来るか、と訊かれたので、多分、と言った。
