ーあらすじー
(男は“かけうどん”を食べ続け、その模様を物語 として編纂していた。日本書紀、古事記のような後世に語り継がれる物語を目指しているのか?まさか。答えはNOだ。地方都市の片隅でひっそり暮らす無名の三十路男性が、ただ“かけうどん”を食べる。なんだ、それ。全くつまらないじゃないか。誰が読むのだ。歴史的価値などある筈も無い。ゴミだ。しかし、某うどんチェーン完全制覇、その達成こそが、男にとっての維新、大阪都構想に匹敵する野望だったのだ。つまり、男は他にやるべき事が思いつかなかったのだ…)
なんとなく昼飯を食いそびれてしまった男は、あても無く久留米市中心部を自転車に跨り徘徊していた。自分は今、うどんを食べたいのか、ラーメンを食べたいのか、ちゃんぽんを食べたいのか、定食を食べたいのか、幾度も自分で自分に問い掛けるものの、一向に答えが出ない。スパイラル・シンキング。出口のない螺旋階段。何軒もの店を通り過ぎた。もう10km以上ペダルを漕ぎ続けていた。降り注ぐ初夏の陽光が男に汗をかかせ、体力を奪い、空腹はますます耐えがたく男を襲った。時計の針は15時を指し示そうとしていた。
(…もう、うどんでいいや。安いし)
見慣れた切妻屋根、風に吹かれる幟、狂ったように青く澄んだまばゆい空に薄い雲が幾筋もたなびいている。男は喜びと感動の店、ウエスト
白山店へ入った。
中央に蒲鉾が一枚、茶色い出汁、やや細めの麺、安定のルックスだった。葱と天かすは入れ放題で、卓上に用意されている。出汁は、雑味の如く、いりこの主張が強い。毎日手作りの出汁は、あじこといりこの風味、仕上げにさばぶし、鰹ぶし、塩は九州五島灘の塩を使っているらしい。魚介系、海味だ。
麺はにちゃっと絡みつくような、粘りと弾力がある独特の食感だ。たまに無性に恋しくなる。流石は福岡のソウルフードだった。

