小郡遺跡ラーメンセット | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

祝日。天気予報は雨だけど、一向に降り出す気配はない。空からはまばゆい太陽光が燦々と部屋に降り注いでいる。僕はお出掛けすることに決めたんだ。


西鉄小郡駅で下車すると、駅前のロータリーに設置された大きな地図を眺め、近辺にどんな極上の観光スポットがあるのかを探した。遺跡があるらしい。興奮した僕は北上する。


足元に目を落とすと、一定の間隔を空けてずっと、その遺跡までの距離と簡単な解説がコンクリートの歩道に四角い枠取りにカラーで記されている。土地勘が無くても、これで迷う心配は無い。


駅からゆっくり歩いて十分程だろうか、僕は「小郡官衙遺跡 」に辿り着く。ざっくり言うと、古代の役所跡らしい。当時の建物の柱や、溝が復元されている。一面に緑が広がっている。雑草が猛々しく茂り、春の強い陽射しを浴び、白い花が風に吹かれていた。柱に足を掛け、スポーティな短パン姿の初老男性が熱心にストレッチをやっている。少年たちが遺跡の周囲を自転車で競走している。ベンチに腰かけているのは共に浅黒い肌をした若い男女で、二人の間には傍目にもどかしく絶妙な距離感が保たれている。早口で会話を交わしている。恋の睦言でも語り合っているのだろうか。はにかんだ表情で何かを言った男に、髪の長い女が口を大きく開け、のけ反って笑う。僕は何処の国の言語なのか全然わからないし、その内容も類推する事しか出来ない。でも、二人はきっと、こんな会話を交わしていたのではないか。多分、違うかな。いや絶対違うな。


「今からさ、久留米ラーメン清陽軒 小郡店に行こうよ!コラーゲンたっぷりなんだ。君は10000mg分美しくなれる筈なのさ」


「…えーっ。15時過ぎだよ。それ何飯なの」



遺跡から東方向へ進むと、大きな通りへ出る。福岡県小郡市大板井332-1、其処に「久留米ラーメン清陽軒小郡店」はあった。去年オープンしたばかりの新しい店舗である。幾ら人気店でも祝日でも、15時過ぎにラーメンを食べる人間は少数である。入店の時点では客はどうやら僕だけみたいだった。


カウンター席に案内されて、肩掛け鞄を隣りの赤い椅子に置く。被っていた帽子を取り、ごく自然な呟きで、あっつうー、という声が漏れる。ほっそりした顔付きの女性店員が、暑いですか、と僕に問う。簡単な時候の挨拶の積りで僕は単純に、はい、と答える。外は暑いですよ、参りますね、そんな雑談の入り口かな、と思ったけど違う意味に捉えられたようだ。冷房つけます、ぴゅーっと機敏な足取りで女性店員は厨房の方向へ消える。接客が徹底されている様子だ。冷たい水を飲みながら、BGMとして流れるジャズの響きに身を委ね、メニュー表を広げる。



「屋台仕込みラーメン」と「すっぴんラーメン」があり値段も同じ570円、僕はあっさりしたラーメンが好みなので、呼び出し釦をプッシュして、後者を注文した。



ラードを一切使用していないラーメン、でもちゃんと、ぷいんと仄かな豚骨臭が立ち上がっている。トッピングは葱とチャーシュー、キクラゲ、海苔で、麺は白っぽいストレートの中細麺だ。


うん、おいしい。間違いない久留米ラーメンだ。スープの量も多過ぎず少な過ぎず、飲み干せる。



清陽軒は薬味が豊富だ。僕は特に「にんにく醤油」が好きだ。投入すると、こってりした味に様変わりする。替玉120円の金を惜しむ僕は、「からし高菜」を大量に食べて口淋しさを誤魔化した。腹に豚骨を注入し口に臭いを閉じ込め、満足した僕は電車に乗り帰宅した。


夕方、ぱちゃ、ぱちゃ、という音がして一気に土砂降りになった。安普請アパートの雨樋に大量の水が伝う。雷鳴が轟き、アパートの裏手で飼われてる老犬の、震えを帯びた悲しげな旋律の鳴き声が、磨りガラスの窓を通して、生々しく耳に届いた。



清陽軒 小郡店ラーメン / 大板井駅小郡駅西鉄小郡駅
昼総合点★★★★ 4.2