懐かしの逸品スパゲッティナポリタン | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

煉瓦調の階段を上がりきって、左手の扉を開けた。古い洋館みたいな空間が左右に広がっていた。白髪の老紳士然とした店主に、どこでも好きな席に着いて良い、と許可を得たので、一番奥の四人掛けテーブル席へ腰を下ろした。


ネオン管が赤く煌めいている。窓際には観葉植物、ワイン、金魚が泳ぐ水槽なんかが飾られている。重厚な黒ずんだ木のテーブル席、灰色のカーペットが敷かれた床、目の高さにある大きな船の模型は甲板にうっすらと埃が積もっている。壁と天井の白い漆喰は、ペンキで適当に塗ったような、ぼこぼこした凹凸が不規則な模様を描いていた。


その二階の白い枠取りの格子窓から一番街アーケードを眺め下ろすと、足早に通り過ぎる仕事帰りらしき女性三人組とばっちり目が合う。こちらの視線にぎょっとした表情を浮かべた彼女たちは、無論、グラマラスなイタリアン美女では無く、固太りした農耕民族の末裔、もんぺが似合いそうなオバタリアンである。そこから恋に発展することはまず無いだろう。いや、そもそも僕の辞書に“恋愛”なんて文字は無い。僕は「ナポリタン」を食べるだけだ。

楕円形の黒い鉄皿にて提供された「ナポリタン」は700円だった。


麺がつるつるしているのが見た目でわかる。細長くスライスされた玉ねぎ、ピーマン、端っこが黒く焦げたベーコン、小振りなマッシュルームといったオーソドックスな具材が盛り付けられていた。味付けはデミグラスソースである。上品な洋食といった感じだ。うむ、ケチャップまみれで真っ赤、ぷりぷりウインナーで感激、さらに卵入りなら狂喜乱舞。そうした僕が思い浮かべる理想の下品な「ナポリタン」像とは些か趣きを異にしていた。タバスコと粉チーズを元の味が変わるくらい大量投入したので、どっちみち関係なかったかも知れない。鉄皿は伊達じゃない。熱々だ。ふ、ふうーっ、ぺちゃぺっちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ず、ず、ずーと存分に嫌ったらしい下品な音を立てながら麺を啜った。周囲には誰もいないし、苦情の心配はしなくて良い。備え付けのスプーンは使っていない。というより使い方が分からない。うまく麺と絡める事が叶わず、最後に残った具材を、フォークで擦り取って綺麗に食べ尽くした。スパゲッティを食べるといつも最後に具材、特に玉ねぎが残りがちになってしまう。何故だろう。


当たり前の具材を用いた「ナポリタン」は当たり前の味がして、何の意外性も無く、ただ単純に、普通にうまかった。

「グリンダ」さんは久留米市東町34-71、一番街アーケード内にある。興味がある人は、行ってみたらいいと思う。レトロな雰囲気に浸かり、ゆったり寛げるいい店である。







グリンダ喫茶店 / 西鉄久留米駅花畑駅櫛原駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7