Take Bird Out | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

屋台は苦手だ。しかし、俺は行かねばならぬ。


「そこに屋台があるから」


そんな名言を吐く積りは毛頭ない。俺はB級グルメの聖地久留米に暮らし、市内で働き、僅かな給金から税金を納め、飲食店を巡る旅を続けている。孤独なツーリスト。センチメンタル・ジャーニー。俺は「くるめ食の八十八ヶ所巡礼の旅 」の巡礼者、お遍路野郎なのだ。たまの休日、八十八ヶ所巡る以外に、俺にはやるべき事もやりたい事も特にない。友達も恋人もいないし、必然何の予定もない。全軒制覇しないと、俺の男としての沽券に関わる。


俺は元来、根が陰気で人間嫌いなシャイボーイ、寡黙な人見知り体質に出来上がっていた。そんな俺に屋台はハードルが高い。常連が幅を利かせる狭い空間は苦痛以外のなにものでもない。それでも仕方が無かった。巡礼冊子に屋台が載っている。判子を捺して頂く必要があるのだ。



昭和36年創業の老舗、久留米市城南町14-7筑邦銀行駐車場に午後18時から23時まで営業する「屋台キング」、俺はそこの厚いビニールシートの裾をめくった。冷え込みが厳しい夜だった。強い風が吹き荒れていた。


「は、はあん。あっあっ、じゅ、巡礼、もも、持ち帰り、巡礼の冊子に書いてあったと、よかですかっ」


少したどたどしかったものの、店に入るなり俺は注文を伝えた。そう、俺は持ち帰り注文することで気まずい時間を短縮しようと試みたのだ。ガムテープで所々補修された古びた木のカウンターテーブル、簡素なベンチに所在無げに腰を下ろした。落ち着かずにきょろきょろ店内を見渡す。梁の木は黒ずんで、何時かの釘が打ち込まれたままになっている。貼られたポスターの類いは、油汚れでべっとりした様子でよく読めない。独特の雰囲気、グリーンのシートが強風でめくれ上がり、足元から冷気が吹き込む。時折襲う突風で屋台全体が揺れた。


以前訪れた際は(実は三度目の訪問だ)物腰柔らかく優しげなお婆さんが接客してくれたが、今夜はいない。若い男性店員が二名、常連客と思しき中年男性が保温機能がある耐熱グラスで酒を呷りつつ、店が退けたら、別の常連客を交え麻雀をする等と談笑に耽っている。三名ともダウンジャケットを着込み防寒対策に余念がない。ああ、完全アウェー。俺が巡礼冊子を差し出すと、「ウチはセルフなんで」と判子と朱肉を渡される。早くとんずらしたい。


「巡礼ち、どんくらいの店が参加しよっと?いや、別に興味無かばってん。観光客じゃなかけん、せんかつせんでよか。意味なかやん。地元に住んどるとに」


常連客が店主に話し掛けた。ディスられていたのかも知れないが、俺は沈黙を貫いた。無用な口論は封建時代の遺物である。非力な俺が激高したところで多勢に無勢、袋叩きにされるのは御免だ。


「いかーん。風ん強かけん、いっちょん火が通らん。熱が逃げよる」


店主が嘆く。なかなか持ち帰りで誂えた「巡礼おすすめ4本セット500円」は焼き上がらない。俺は押し黙ったまま、かじかむ手に息を吹きかけ、常連客と店員の会話をなんとなく聞いている。競輪、飲み屋のネーチャン、別の常連客の噂…、体感では永遠に続きそうな待ち時間だったが、実際は十数分くらいだろう。プラスチック容器を折り込みチラシで包みポリ袋に入れ、焼き鳥が提供された。



巡礼おすすめセットの内容は、ダルム・豚バラ・砂ズリ・巻き串(内容は日替り、本日はキムチ巻きだったようだ)である。居室に戻った俺は、大皿にライスを敷き、焼き鳥を串から全部外し、ライスの上に配置した。それにレトルトカレーをかける。これで久留米焼鳥カレーの完成だ。


ダルムはくにくに、豚バラは塩味にほどほどの脂身、砂ズリはぷりぷり、しゃきしゃきな食感のキムチ巻きはカレーと良く合った。うん、屋台は苦手だが、キングの焼鳥はうまい。


屋台キング焼き鳥 / 久留米駅
夜総合点★★★☆☆ 3.7