男はレンタサイクルを漕ぎ山道を登る。そんな旅をしている。
なぜ?
女子の気持ちを知るためだ。旅は恋愛成就祈願とスイーツ散策で構成されている。ここではスイーツ散策について申し上げる。
竈門神社そば「さら」さんである。カレーとケーキ、チラシに記されてあった。男はカレーを食べたかった。ピンクの幟がはためいている。
温かい木材の質感に心が落ち着く空間だ。心地よい音量で響くクラシック、片隅にリードオルガン、吊るされたアコースティックギター、音楽に関する深い造詣が窺える。
少しだけ髪を伸ばした瀬戸内某氏のような風采の店員さんが、くだけた口調で注文を取る。男も自然とタメ口で「野菜カレー」900円を誂えた。
テラス席で煙草を燻らす。テラス・ロンリネス。男は咥え煙草で、ここまで登ってきた淡いブルーのレンタサイクルに目を遣る。まるでスティーブ・マックイーンがポルシェ917を見つめるような真剣さで。
まずは、サラダだ。少量だが無難にウマいと言っていい。やや厚めにカットされた胡瓜に歯応えがある。
野菜カレーが提供された。一瞥し、(…またサラダが乗ってやがる)と男は思う。千切りキャベツがこんもり小高い稜線を描いている。やや薄い色合いのルーをスプーンで掬って口に入れる。郷愁の味、ボン的な風味を感じる。これがキャベツとなかなか相性がいい。食感が楽しい。大きめな塩麹国産チキンが二切れ、しっとり程よい柔らかさである。量も結構あり、男はカレーを満喫した。
皿を下げるついでに水を注ぐ瀬戸内氏に尋ねた。
「これまで何人のギャルちゃんがレンタサイクルでここまで登ってきた、ミセス?」
ただし正確にはもっと慇懃な日本語で。ミセスは答える。
「あんたが第一号たい!女の子やったら、ここまで自転車で登ってくると大変やろうもん。ちょっと待っとかんね。第一号のサービスばしてやろう」
男は二つ返事でサービスのスイーツを享受した。来日初打席で本塁打を放った助っ人外国人のような気持だった。
ありがとうございました。ミセス。あっ、もすっ!
http://tabelog.com/rvwr/002224433/