この記事は私の調べた範囲のまとめですので、正確な医学知識をお求めの方は成書をご覧ください


【はじめに】
救急外来にwalk-inで来た外傷患者の対応をするにあたり、破傷風トキソイドワクチンおよび抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与を考慮する必要がある。私が調べた範囲では明確な基準がなく、一部文献では可能な限り外傷全例にワクチン接種を推奨するものもあったが、それは少なくとも当院では現実的ではなく、実際にそのような対応もしていない。
今後の外来対応のためにも基準を定める必要があると考え、以下のページおよび文献を参照して基準を設定した。



【参考文献】

1国立感染症研究所/感染症情報センター/病原微生物検出情報
『外傷後の破傷風予防のための破傷風トキソイドワクチンおよび抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与と破傷風の治療』
http://idsc.nih.go.jp/iasr/23/263/dj2632.html

アメリカでは表1に従って傷を分類し、表2に従ってワクチンおよびヒト免疫グロブリン(TIG)を投与する。ワクチンは0.5mlを筋肉内投与、TIGは250単位を筋肉内あるいは静脈内投与する。筋肉内投与の場合は上腕二頭筋がもっともよく用いられるが、ワクチンとTIGは別の腕に投与する

破傷風の可能性の高い創
破傷風へのワクチン・グロブリン投与基準


2Eisai/パリエット/お役立ち情報
『犬猫ヒト咬創時の破傷風の予防』
http://www.pariet.jp/helpful/vol55/no571/sp16.html

日本での現行の予防接種のシステムからして、12歳時に4回目の破傷風トキソイド接種が行われる。破傷風免疫はその後10年持続するので、約22歳までは免疫は担保されている。
22歳以降についても、そのような基礎免疫の確立された患者では、破傷風トキソイドの接種のみで抗体価が数日で上昇する。極度の汚染創を有する場合、あるいは重症外傷、肝硬変、担癌状態などの何らかの免疫不全がある患者は、抗体価が急速に上昇しないのでTIGの接種が必要である。
昭和43~56年以前に生まれた人で、ワクチン接種を全く受けていない人は基礎免疫が確立していない可能性が非常に高い。従ってTIGが必要である。しかし、破傷風の潜伏期間が2日~2か月であるのに対してTIGの効果は約1か月しかないので、一時的に基礎免疫をつくるべく受傷時および3~8週後にトキソイドを接種する必要がある。さらに2回目の12~18か月後にトキソイドを接種すれば永続的な基礎免疫が確保される。


3国立感染症研究所/感染症情報センター/病原微生物検出情報
『成人への破傷風トキソイド接種』
http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/349/dj3495.html

図2にあるように破傷風の発症者の90%以上が45歳以上である。
図4にあるように40代を境に破傷風抗体の陽性率は大きく低下している。

破傷風患者の年齢
破傷風抗体の保有状況


4「病棟の困ったを解決! マイナートラブル対処法」/横浜市立大学
『外傷、動物咬傷への対応』

動物咬傷・ヒト咬傷は全て破傷風予防の適応となる
<創が清潔で軽症な例>
①1968年以降の生まれ(2014年現在で46歳以下)で、最終接種から10年経過
   ⇒破傷風トキソイド1回接種
②1968年以前の生まれ
   ⇒破傷風トキソイド3回接種(0日、3~8週、6~18か月)
<その他の例>
①1968年以降の生まれで、最終接種から5年経過
   ⇒破傷風トキソイド1回接種
②1968年以前の生まれ
   ⇒破傷風トキソイド3回接種+抗ヒト破傷風免疫グロブリン250単位1回静注


【結論】
以上を理解した上で、簡便にまとめると以下のようになる

22歳以下であればどのような創であってもトキソイド・TIGは原則として不要
22~45歳であれば、汚染創に対してトキソイド1回。極度の汚染創を有する場合、あるいは重症外傷、肝硬変、担癌状態などの何らかの免疫不全がある患者はトキソイド3回+TIG。
46歳以上であれば、汚染創に対してトキソイド3回+TIG。