2月3日、空にはキリッと冷たい星が光る節分の夜。
佐藤家の玄関が開いた瞬間、気合十分の声が夜風を震わせました。
「鬼はーーーっ! 外ッ!!!」
お父さんの豪快なフォームから放たれた豆が、夜の闇へと吸い込まれます。その刹那、闇の向こうで**「カチッ」**と何かのスイッチが入る音がしました。
シュタタタタタタッ!!
「にゃあああああん!!」
闇を切り裂いて突撃してきたのは、角の生えた鬼……ではなく、電光石火のスピードで飛んできたふわふわの三毛猫!
彼女にとって、飛び散る豆は「追いかけるべき獲物」以外の何物でもありませんでした。
「うわああ! 鬼の逆襲か!?」とお父さん。
「違うよ、猫だよ! めちゃくちゃ可愛い三毛猫!!」とあかりちゃん。
家族が呆然とする中、お父さんは動転して、手に持っていた最後の一握りを家の中へと投げ入れながら叫びました。
「ふ、福はーーーっ! うちーーーっ!!」
その言葉はまるで魔法の呪文。三毛猫は「御意にゃ!」と言わんばかりに、玄関を華麗なジャンプで飛び越え、そのままリビングへとダイブ! 佐藤家に「最強の福」が文字通り舞い込んだ瞬間でした。
豆まきならぬ「猫追い祭り」の開幕!
そこからは、節分という名のスポーツ大会です。
「鬼は外!」「福はうち!」の掛け声に合わせて豆が舞うたび、三毛猫は家中を無双状態。
リビング: ソファを跳び箱にして、空中キャッチ!
キッチン: 転がる豆をドリブルして、お母さんの足元を華麗にスルー。
2階への階段: 壁を蹴って三角飛び!
「ちょっと待って、この子、鬼より素早いんだけど!」
ゆうとくんが笑い転げ、ばあちゃんは手を叩いて大喜び。
家中が豆だらけ、そして家族の笑い声だらけ。三毛猫はついに、豆を一粒お口にくわえて、誇らしげに「にゃっふー!」と勝利の雄叫びを上げました。
嵐のあとの、温かな「福」
祭りが終わり、家中が炒り豆の香ばしい匂いに包まれる中、三毛猫はリビングの真ん中で香箱座りを決め込んでいました。その前足の下には、戦利品の豆が数粒。
「ふぅ……。鬼を追い出すどころか、とんでもない暴れん坊を招いちゃったな」
お父さんが苦笑いしながら、三毛猫の耳の後ろをそっと撫でました。すると、
「ゴロゴロゴロゴロ……」
家中を駆け回っていたのが嘘のように、彼女はとろけるような顔で目を細めたのです。
「ねえ……。この子、自分から『うちの子になる』って決めて来たんじゃないかな?」
あかりちゃんの言葉に、家族全員が顔を見合わせます。
「福が自分で玄関を叩いて……いえ、飛び越えてきたんだもの。これはもう、お断りできないわねぇ」
ばあちゃんが優しく微笑むと、お母さんも頷きました。
「そうね。鬼は外へ行ったけど、福はちゃーんと、一番可愛い形をして居着いてくれたみたい」
名前は「節子(せつこ)」
その夜、家中にお散らばった豆をみんなで楽しく掃除した後、家族の真ん中には、丸くなって眠る小さな三毛猫の姿がありました。
名前は、満場一致で**「節子」**。
節分の夜に、空から降ってきたような最高の贈り物。
佐藤家の新しいルールが一つ増えました。
「鬼は外! 福はうち! そして……にゃんこは、絶対うち!!」
幸せの香ばしい豆の匂いに包まれて、節子の小さな寝息が、新しい家族の始まりを告げていました。
