8月29日。
豪雨でダイヤの乱れている田園都市線。
断続的な雷が、夜の町を薄紫色に浮かび上がらせる。
車窓をたたきつけては流れ落ちる雨粒が、窓ガラスとサッシの隙間から噴き出し座席に小さなシミを作る。
完ペキに密閉されているわけではないのだ。
思わぬ発見をしながら、ぎゅうぎゅうの車内でその光景を眺めていた。
その時。隣の吊り革につかまっていた初老の男性が、背中に立っていた老婆に声をかけた。
「場所変わりましょうか。こちらの方が、いくらか楽です」
背の低い老婆は目を見開き、まあ、そんな、と手を顔の前で振った。
「ありがとうございます。ご親切にどうも・・・」
髪をなでつけながら、何度もお礼を言った。
再び沈黙の車内。
窓に映る2人の姿は、雨で洗われては消え、また現れ・・・。
ぼやけたモノクロのスクリーンの中の2人は、10も20も若く見え、私は勝手なロマンスをいつまでも空想し続けていた。