☆時事通信☆
体操女子のスター、シモーン・バイルス(27)=米国=はパリ五輪で
主役の一人になり得る。
驚きの跳躍力や、誰もまねできない大技だけが理由ではない。4冠に輝いた
2016年リオデジャネイロ五輪に続く活躍が期待された東京五輪では、大会中に
メンタル面の不調により一時離脱。長い療養を経て復帰したドラマがある
からだ。最近出演したポッドキャストの番組で、苦悩の日々を振り返った。
異変は団体決勝前からあった。イップスのような症状による空中感覚の乱れ。
出だしの跳馬は何とか着地したが、「内心はパニック状態」。次の種目から
棄権した。エース不在の米国は3連覇を逃して銀メダル。「母国や世界から
憎まれると思った。SNSでは何を書かれているのか。それしか考えられな
かった」。罪悪感で自分を責めた。
心を傷つけたのは競技面の不調だけではない。米国代表の元チームドクター
による大規模な性的虐待問題では、被害者として涙ながらに証言したことも
あった。「ひどい出来事が何年も積み重なって、トラウマが(一気に)現れた
感じ」
東京五輪後は2年ほど競技から離れ、治療を受けてきた。復帰後の昨年、世界
選手権で個人総合など4冠を達成。輝きは全く色あせていなかったが、罪の
意識はまだ心の隅に残っている。「いい日もあれば、悪い日もある。まだ
セラピーに取り組んでいる」
今月2日まで行われた全米選手権では4種目合計60点超の驚異的なスコアを
挙げるなどし、最多記録を更新する9度目の制覇を果たした。「切り替えて
前を向く方法を知っている。それが長年のセラピーの成果」。パリでは抜群の
演技だけでなく、自身の心との向き合い方にも注目が集まる。