点滴も外れ、病棟内をプラプラしていたら、

なんと病棟の、ほぼ中央に喫煙所がある..。

・・今日び、病院内に喫煙所があるなんて、

稀有な事だ。・・あったとしても

病院敷地内の片隅にひっそりと

身をひそめるように存在する。

 それが、堂々と、ど真ん中にある。

透明のプラ板で隔離されていて、

10個位の椅子がグルリと対面式に

置いてある。

 まぁ、病院側の配慮で、酒から少しでも

関心を遠ざける為なのかもしれない..。

・・タバコは体に有害でも、

酩酊しないし、

禁煙しても酒よりも離脱症状は少ない。

喫煙所は病棟内で一番賑わいを見せていた。

・・セントラルホールは、だだっ広いが

禁煙。 この広い場所に30位の椅子があり、

そこで、さほど親しくもない人、それぞれが

隣に座る事はないだろう。

 それにひきかえ、喫煙所はいつも満員御礼(笑)

ギュウギュウ積めで、モクモクだ。

 タバコを吸わない人からしてみれば、

超苦痛の空間なのだろうが、このギュウギュウ積め

スペースのおかげで、皆すぐ、話し相手となれる。

・・相手が大体どんな人なのかが判る。

・・僕も、恥ずかしながら1mgと言えど、

たばこの喫煙者(←言い訳がましい)

・・なので、その部屋へ入って行った。

 軽く「失礼します」と小さな声で空いている席に座った。

「あっ、時田さんですね?伊藤です(^^)宜しくお願いします!」

・・と黄色いバンダナを、かぶった5歳位、

年上の人が話しかけて来てくれた。

 伊藤さんは表情に優しさがにじみ出ている。

体格はガッシリ型で、顔だちは地味。銀縁メガネをかけた人だった。

僕も「時田です。宜しくお願いします」とスカサズ返すと、

皆も和やかな視線でこちらを見ていた。

・・・どうやらこの病棟に、特別凶暴な人はいなさそうだ..。

僕の我見だが、一番クセのある人達がこのスペースに集まると

思っていたからだ..。

 その他の人はセントラルホールでTVを見ていたり、

ベッドで読書にふけっていたりする..。

 その代わりあまり親しい人もできずに、退院していく人が多い。

 僕は、こういった特殊空間で、一番メゲない方法は、

早く話し相手を作り、ディスカッションを繰り返して

日々を過ごす事だと思っていた。

 そういった意味で伊藤さんの声かけは、僕にとって救いの

一言だった。

 その後、ここでの入院生活の中心はこの喫煙所だったと言っても、

過言ではない。

 その後、数日間に渡り、それぞれの人の

酒害体験や病院でのエピソードを聞かされた。


・・この病棟には4~5回ぐらいリピートする猛者も少なくない。

 再飲酒する事を、専門用語で『スリップ』と言うが、それだけ

断酒と言うのは難しいと言う事だ。

 ・・しかし、この喫煙所に陰鬱な雰囲気は無く、

大体 笑いで溢れていた。

 どうせ皆、滑った(スリップした)んだからと言う開き直りがあった。

ここでは、地位も名誉も関係ない。

 それぞれが人に説教をできる立場でない事を自覚している。

ある意味、平等社会の縮図だ(笑)

 強いて、上下関係があるとすれば、先輩・後輩ってところだろうが、

ここの入院期間は12週間。

 牢名主のような人がいても、すぐに卒業(退院)していく。

結構笑える話を聞いたのだが、以前、最古参の患者がいて、

退院日を迎えた。退院日は朝礼の時、前に出て、ここでの経験と、

入院前の反省、人生の再スタート、

皆への感謝、今後の断酒の決意を発表する。

 大体の人は、この特殊社会を乗り越えた事や、

同輩と情が通っているので感極まって涙ながらに発表する。

「ここへは二度と戻って来ません!」と言って

病院を出て行く。

・・見送る方も、もらい泣きし「頑張れ~!」

・・とか激励して退院者を送り出す。

 ところで、この最古参の人..入院中は態度も少々ビッグで、

断酒のあり方等を熱く語っていたそうだが、

退院日に帰宅する駅のキヨスクでワンカップを目撃してしまった。

・・躊躇なく呑んでしまったという..。

 酒の魔性から催眠にかけられているようだ。

抗酒剤を飲んでいるので、スカサズ駅でぶっ倒れ、

救急車で運ばれて、病院へ逆戻り。

 反省室(通称VIPルーム)に一日入り、

翌日の朝礼で「今日から入院する伊藤です!宜しくお願いします」

と新患挨拶をしていたそうだ。 

 最古参から一変して新人となる。

皆、呆れるのかと思いきや、そうゆう話は

少なくないようで、苦笑するようだ。

 アル症は、利己の病と言っても良い。

人に強要する訳でもなく自分が気持ち良くなり

他に迷惑をかけないなら、

未成年者や飲酒運転しないかぎり犯罪でもない。

酒乱になって暴れたり、DV・パワハラ・モラハラを

するならば、人に迷惑をかける事になるが、

酒乱とアル症は、全く病気が違う。

アル症じゃなくても酒乱はいる。

酒乱じゃなくても酒を止められないのがアル症だ。

アル症とは、長年の飲酒により脳の

飲酒ストッパーが破壊され、

一滴でも飲むと止まらなくなってしまう病気..。


ブレーキが壊れた車で走れば、時速10kmしか

スピードを出さなくても、必ず事故る事と同じだ。



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