以前、国立西洋美術館でユベール・ロベール展が開催されたことがあります。

 

サブタイトルは『Les jardins du Temps』

時間の庭、でした。

 

18世紀に活躍したフランスの風景画家ユベール・ロベール。

11年間のイタリア滞在により獲得した古代ギリシャ・ローマ時代の遺構に蓄積された歴史のエッセンスを、当時のフランスの自然に融合させながら想像の風景を織り成していきます。

 

そこには、神話の世界が派手に描かれているわけでもなく、極端な独創性が発揮されているわけでもないのですが、ロベールが構成した風景からは世界に影響を及ぼす時間の力の存在が感じられます。

 

当時改築中であったヴァランス美術館所蔵のサンギーヌ素描83点を含め各館から集められた約130点の作品には、門や石橋の下部を支えるアーチ、円形周柱神殿やその柱が数多く登場していました。

 

その直線と曲線の構図から感じられるもの、それは、時を越える光のトンネルです。

 

 

(The Old Bridge 1775)

 

 

視界に映るのは当時の今、しかしそこには時を越える装置としての空間が確かに存在している。

そんなことを感じさせます。

 

幼少の頃に、森の中の暗い木々の隙間を通り抜けたところに密かに広がる、緑の陽だまりの空間を見つけたときのような不思議な感覚です。

 

 

 

本当に時間を飛び越えてしまったかのようなモチーフも存在しています。

 

サンピエトロ大聖堂の柱廊の開口部には、どうみても江戸時代の日本人らしき人物が見えます。

天正遣欧少年使節がローマ教皇グレゴリウス13世に謁見したのは1585年ですから、その当時からローマ人は日本人を知っていたわけですが、しかしこれはどう見ても東海道を旅してるうちに知らずに時空の扉を通過してローマに来てしまった旅人風です。

(しかも本人はその現実にまだ気づいていない様子)

そんな日本人風の人物が作品全体を通して何人も確認できます。

 

最晩年の作、ヴェルサイユのアポロンの水浴の木立には、バランスがおかしく見えるほど体の大きな今風の赤い服の少年が地面に伏せています。

この少年、他の絵にも同じ体勢で登場しますが何者なのでしょうか。

 

思索中に驚かされる修道士は、ビックリした表情が現代の漫画のよう。

そう思ってよく見てみると、他の作品にもけっこう漫画的な表現がありますよ。

 

 

 

それから、川で洗濯をしている人たちがとてもよく登場します。

 

当時は乾燥機もないので普通は洗濯は朝のうちに済ませて日中に乾かしますよね。

なのに昼の風景にも、夕方の風景にも洗濯をしている人たちが出てきます。

ヴェスビオからの灰の影響で頻繁に洗濯をする必要があったのかな。

 

川の流れに面した遺跡の縁で続けられる洗濯。

永遠の時間の流れの中で繰り返される日常の風景。

私たちの傍にも、時間の庭は存在しているのだろうと思います。