ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作品です。
100年前というと1923年が会社の設立年ということになりますが、そんな前からだったかなと感じてしまいがちです。
本作のような長編アニメということでいうと1937年に製作された「白雪姫」からということになりますし、オープニング・クレジットに登場することから「蒸気船ウイリー」がミッキーのデビュー作と認識しているひともいますが、これはあくまで初のトーキー作品です。ちなみに今作のクレジット版はサイレント仕様でした。
ウォルト・ディズニーはそれ以前よりアニメ制作に関わっていてこの度 100周年を迎えました。
設立から一貫して児童に夢を与えるアニメ作品の制作に特化していましたが、それが同時に白人社会の賛美という側面もあったことから近年からは作品の色合いが大きく変わりました。
顕著だったのは10年前に公開された「アナと雪の女王」だったように感じます。21世紀の代表作ですが、いわゆるプリンセスものでありながら、ヒロインはふたりの姉妹で、しかも幸せな結婚という結末がありませんでした。女王は未婚のまま国を統治します。
「白雪姫」から描かれつづけた素敵な王子様との結婚は21世紀の価値観では偏った固定概念として否定されます。
女性は幸せな結婚をする為に生まれてきたのではないというのは正しい認識ですが、そのことで古典童話のフォーマットが使用できなくなり、これ以降は顕著に各種多様な識者に向けて、ご機嫌を伺うような設定で作品が作られるようになり、結果的に闘う女性ばかりが描かれるようになったように感じます。
本作も魔法やお城、森の動物たちといったいかにもな古典童話的なアイテムが並んでいますが、ヒロインは悪政から民を解放する戦士でした。
魔法を使える王様が民の心から願いを奪っているという設定で、プロットは「願い」を取り戻し、心の平和をもたらすということなのですが、「願い」の概念がわかりづらいです。
年員や規律で抑制しているのではなく、心の一部を奪われてしまうというカルト教団のようなアプローチに現代性があるのかなとも思いますが、「夢」でも「祈り」でもなく「願い」というところには実際宗教的な感覚の違いがあるのかもしれません。
演出には過去の名作のオマージュが見受けられ、森の動物たちには日本語版でも過去作の主演声優がキャスティングされ、記念作品のお祭りムードを盛り上げています。
映像は純然たる 3DCGではなく、手書き絵とCGのハイブリットということですが、どのように製作されたかはわかりません。
デザイン的にはとてもフラットな印象です。キャラクターたちはポリゴン的な凹凸感が抑制され、ペーパークラフトのような印象で、背景も奥行きがなくフラットな書割り風なのが新鮮でした。
アニメーションの100年に及ぶ歴史を総括するのであれば、その間に何を失い、何を手に入れたのかを見せることのほうがインパクトはあったかもしれません。とするとやはり「ふしぎの国のアリス」のフォーマットがもっとも有効で、IT時代を生きる少女が中世のおとぎの国へ迷い込む方がわかりやすいのですが、風刺が強くなり過ぎるとピクサー的になってしまうのかもしれません。
物語のキーパーソンとなるのが星の妖精であるスターというキャラクターです。いわゆるマスコットキャラなのですが、星をモチーフにしていることもあり任天堂のゲームキャラ「星のカービィー」と重なります。
実際に比べて見るとデザインは異なるのですが、デフォルメの方向性がおなじなためそのような印象を受けます。
さらに人物や動物たちがこれまでの古典的デザインを踏襲しているため、このスターのデザインが画面の中で浮いていることもネガティブな印象を与えています。
個人的には「うる星やつら」のエピソード「星に願いを」に登場する「願い星」というキャラクターも想起しました。願い星となるとますます本作の内容とリンクしてしまいます。