前作の完結編から8年振りの新作です。

 1980年代にテレビで放送されていた人気アクション・ドラマをリブートさせずに40年近く経過してなお新作が公開されたことは偉業と思います。

 今もテレビドラマの題材として刑事もの、警察ものは人気が高く多くの作品が制作されつづけていますが、昭和の時代にはアクション・ドラマとしての警察ものがありました。

「太陽にほえろ!」や「西部警察」といった石原プロによる作品が代表格で、日本を舞台にしながら派手なカーチェイスや拳銃はもちろんライフルやショットガンまで発砲して犯人を逮捕ではなく射殺してしまう展開は無国籍ヒーロー映画の系譜かもしれません。

「あぶない刑事」は東映から独立したセントラル・アーツの作品で、主演に舘ひろしがいることから石原プロ作品の色を強く感じます。
 1980年代にはアメリカの刑事ドラマ「白バイ野郎ジョン&パンチ」が日本でも大ヒットして、いわゆるバディものが多く作られるになります。また、日本でも1986年から放送されるようになる「マイアミ・バイス」は刑事ドラマに「おしゃれ要素」を入れたことで社会現象的なヒットになります。
「あぶない刑事」もドンパチものに当時一世を風靡していたトレンディドラマの要素を掛け合わせるという手法で、ともすれば泥臭くもあった刑事ものが明るくポップな世界観になり、広い層からの支持を得ることになります。

 1980年代はいわゆるバブル景気の時代ですが、少年向けコミックにおいて大きな変革があり、スポ根マンガが主流だった市場に、美少女が登場するラブコメが投入され、大きなムーブメントになります。
 芸能界に松田聖子が現れ、それまでの美少女歌手のアイドル的要素は顔立ちや衣装といった容姿までだったのが、歌唱法や表情で「可愛い」を表現したことで、大変革が起こりました。
 日本における「可愛い」がアイコン化され、後発のアイドルがことごとく聖子チャンになるだけではなく、マンガやドラマのヒロインも聖子チャン化し、大ヒットしていたSFアニメ路線もラブコメ作品によって淘汰されていきます。

 これを日本男児の軟弱化と揶揄する向きも強くありましたが、こうした社会背景いあって「あぶない刑事」は新しいアプローチに成功した作品といえます。

 殉職をクライマックスにしていたそれまでの刑事アクションが、撃たれても絶対に死なず、最後は必ず笑い飛ばして終幕することは40年近く支持される大きな要素ではないでしょうか。

 とはいえ、舘ひろしも柴田恭兵も70代、浅野温子でさえ60代、仲村トオルがギリギリ60歳前でなんとか警視庁勤務が実現できている状況での新作は容易なことではありません。

 前作「さらば あぶない刑事」はいわゆる勇退作で、定年後はふたりで探偵になったということで、本作は探偵設定でスタートしますが、そんな探偵が「あぶない刑事」になり、さらには発砲するとなると、ここもまた色々と工夫が必要になり、そういった仔細な設定の妙がうまく機能している脚本でした。

 映画館の客層はとても高く、テレビシリーズからのファン、主演俳優のファンが集まった印象ですが、本編には若い俳優も投入されています。

 タカとユージがその昔、ちょっと訳ありだった女性の娘が探偵事務所に訪れて、父親はわからないというもので、ナンパな本作には言い得て妙な設定です。
 2008年公開のミュージカル映画「マンマ・ミーア」は父親候補たちを集めて恋に浮名を流した母親と一緒に娘の結婚式を盛大に行うという物語で、誰が本当の父親かというミステリーもさることながら、突然現れた大きな娘に翻弄されるドタバタ劇が主軸です。

 本作もタカとユージが娘かな? という女性に翻弄される様子が喜劇として描かれ、単発にするには惜しい設定に感じました。

 カーアクションは車の横転や爆破といったシーンにこれまですっかりCGに慣れていたこともあり、カースタントや実車での爆破炎上、水没といったシーンが新鮮でした。CGを使用していないわけではありませんが、スタントの実感があればこそ、舘ひろしのハーレー・アクションが映えるというものです。

 38年の間に2本のテレビシリーズと8本もの映画が製作されたことにも驚きますが、主演のふたりが枯れていないことも凄いことです。
 その意味では仲村トオルの若々しさも相当なものがあります。カオルの扱いはひどいものですが、少ない出演シーンながらその場をすべてかっさらっていく浅野温子の存在感にも感服させられます。

 黒澤明の遺作「まあだだよ」を見たのは1993年です。私は20代でしたので作品の魅力がつかめませんでした。つかめないにも関わらず、これは晩節になって見直した時にまったく違った感想をもつのではないかと当時思ったのを覚えています。
 端的に表現すると高齢者向けの青春映画ならぬ白秋映画だったのではないかと感じたわけです。

 日本社会の高齢化については長年問題視されていますが、世の中が目まぐるしく変化するなかで、エンタメも若年層向けだけでは成立しづらくなってきています。

 高齢者が高齢であることをリスクにせず、年をとることは楽しいことだというファンタジーは、これから求められるのではないでしょうか。
 テレビにおいては地上波とBSとで視聴者層が明確に分かれてきました。中年くらいになるとBSへシフトするひとも多くなり、またサブスクへの加入も進んでいることは、そういったコンテンツに需要があるということかもしれません。

 往年の大ヒット作が復活するケースは多々ありますが、そのほとんどが若い俳優と現代を舞台にしたリブート作品であるのに対して、本作が昭和時代から直結の続編であったことは大きな意味をもっています。
 つまり当時の空気と一緒にファンをそのまま引き連れているということです。

 簡単に作れるものではありませんが、日本の映画界において本作の制作は重要事項と思います。

 本作はあくまでアンコール的な立ち位置と思いますが、最終作ではないことを期待してしまいます。