リブート版の4作目で、猿の惑星シリーズとしては10作目となります。

 前作の「猿の惑星: 聖戦記」から7年空きました。コロナの影響もあったかと思いますが、2014年に「猿の惑星: 新世紀」が公開される際にリブート版は3部作で計画されているというコメントがあったので、前作で完結しているものとばかり思っていました。
 ストーリーを引き継いだ新章シリーズということなのでしょう。本作は前作から300年後の未来なので、猿のシーザーや人間のノヴァといったシリーズでは馴染みのある名前が登場しますが、すべて別キャラで、鷹匠一家のノアが村を襲撃され連れ去られた仲間たちを救出する物語となっています。
 高い知能をもった猿たちがコミュニティを作る過程は前の3作品で語られましたが、猿が鷹匠になる経緯についても、とても気になります。

 人間の少女ノヴァが言葉も高い教養も持っていることを知ったところで、ノア共々猿の組織に捕縛されてしまいます。
 ロープに繋がれて海岸を行くシーンは旧作のオマージュです。自由の女神像があっても良いような気がしましたが、さすがにそれはありませんでした。
 連れて来られた場所は粗暴なボス猿が支配する王国で、人類が遺した巨大なシェルターの扉をこじ開け、その中に封印されている兵器を手に入れることに尽力していました。

 ここで主人公の名がノアであることが気になります。

 やはり旧約聖書をなぞらえているのではないかと勘繰ってしまいます。ノアの家族が描かれたことはノア一家と方舟を彷彿としますし、ノアが鷹匠であることもまた陸の存在を知らせたのがオリーブの実を持ち帰る鳩であったことを想起します。
 ノアの方舟は神が地上の生態系をリセットする物語です。前作までは人類の科学によって知能を高めた猿のシーザーの物語でしたが、新シリーズは次世代の「選ばれし者」の冒険譚になるのかもしれません。
 シーザーが伝説の英雄であるようにノアもまた聖者としてキャラクター造形されているのではないでしょうか。
 とはいえ、145分もあった割にプロットはとてもシンプルで、今後の展開を示唆する要素はあまりありませんでした。

 また、本作は王国といってもとても小さなコミュニティで村社会の紛争に留まっています。「猿の惑星」は宇宙船が不時着した惑星が猿と人間の立場が逆転した世界だったという設定なのですが、リブート版は狭い地域で物語が展開していて、タイトルの「惑星」感がまったくありません。オリジナルのシリーズはタイムリープものになっていて核爆弾で地球が壊滅するという宇宙的な視点がありましたが、リブート版はここまでの4作においてそのような要素がなく、今回はじめて天文台が登場して登場人物が宇宙を見たことは今後の伏線かもしれません。

 冒頭は300年前にシーザーを火葬するシーンでしたが、火葬の儀式をする猿社会に宗教はあるのかとか、文明はあっても芸術のような文化はないのかとか、なまじ映像がリアルなことで気になる点も多かったです。
 人類でいえば石器時代ということかもしれませんが、クロマニョン人や縄文人は宗教も芸術も持ち合わせていたので、本作の猿たちも猿文字を開発していてもおかしくないのではとも思いますが、最初の10年とその後の300年では進化の速度が違うということなのでしょうか。
 知的な会話をすればするほど、姿が猿のままであることも逆に気になってしまい、むしろオリジナル版の服を着て完全直立の姿の方がリアルなのではないかとさえ感じてしまいました。

「戦争で勝てば良い」が描けなくなった現代に、人類が支配されてしまう世界をどう描くかよりも、なにを描くかが興味深いリブート版です。

 本作はあくまで新章のプロローグということで、次作を期待しています。