2018年の「スパイダーマン:スパイダーバース」の続編で前編となる作品です。

 1960年代にスタン・リーによって創作されたスーパー・ヒーローですが、多くのヒーローが大人であるのに対して、スパイダーマンはティーンが主人公という点で、大きく差別化が計れています。

 バッタをモチーフにしたヒーロー「仮面ライダー」のヴィランに怪人クモ男が見受けられるように、クモは決して人気のある生物ではありませんが、これを正義のヒーローのモチーフにすることにスタン・リーのセンスを感じます。

 飛行したりビームを出すのではなく、ワイヤーやネットといったギミックもスパイダーマンの人気の根幹といえます。

 1970年代には日本の会社との提携もあり、日本では本国のオリジナルよりも翻案版が浸透していました。池上遼一の作画による「スパイダーマン」が最初ですが、個人的には東映と業務提携して1978年に放送された実写ドラマ版に強い思い入れがあります。
 バットマンカーのようなスーパーカー「スパイダーマシンGP-7」に変形巨大ロボ「レオパルドン」といったメカの要素が男の子心を掴みました。
 巨大ロボは後にスーパー戦隊シリーズに継承されたことから元祖とされています。また、それらを遠隔操作する「スパイダーブレスレット」は今でこそ無骨なデザインですが、MCUのアイアンマン要素満載のスパイダーマンに共通するものを感じました。

「スパイダーバース」はアニメ映画のオリジナル作品ではなく原作マンガがあります。これまで発表された多くのスパイダーマンをすべてマルチバースとして一元化した作品で、日本版のマンガやドラマのキャラクターも登場するとのことです。権利関係でソニーの映画版や池上作品は存在をセリフで示すに留まっていますが、コミックボンボンに連載された「スパイダーマンJ」は登場するそうです。是非、映画版にも投入してもらいたいなと思います。
 
 実写映画のMCUがマルチバース設定で破綻しているように感じるのに対して、本作は最初からマルチバースを描いた作品なので、意外となんでもありなご都合主義な印象を受けません。
 どちからといえば、アース番号で世界が管理されているように別の惑星からやって来る多国籍軍のような印象で、もはや人類とは別にスパイダーマン族という宇宙人たちがいるような感じです。

 とはいえ、マルチバースものですから、干渉による時間軸の歪みや改変できない運命といった枷が所々に散りばめられ、サスペンス性を高めています。

 少年、ピーター・パーカーが主人公の「スパイダーマン」は青春ドラマの要素が強いアメコミヒーロー譚です。
 親子の関係、恋愛事情など、ティーンの悩みや、こじらせヴィランの暴走といった展開など実写版MCUが失った要素で構成され、ある意味原点回帰的なのも人気の理由ではないでしょうか。

 とはいえ本作は前編ですからクリフハンガーで閉幕するので、作品の真価は次回作次第かと思います。

 ちなみに前作は第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞を圧勝で受賞しました。2024年に発表となる第96回では、今作も有力候補となり「君たちはどう生きるか」の対抗馬になるのでしょうか。