DCエクステンデッド・ユニバースの12作目で、ザ・フラッシュ単独作品の1作目です。

 迷走しつづけている印象の「DCエクステンデッド・ユニバース」ですが、部分修正のようなリブートにも限界が生じたのか、いよいよ枠組みである「DCエクステンデッド・ユニバース」自体をリブートすることになったようで、スーパーマンやバットマンを中心におくジャスティスリーグはクローズするのではないでしょうか。

 光よりも早く移動することで時間の流れ方が変わるというのは相対性理論で、2014年公開の「インスターテラー」で見事に描かれていますが、本作では時間を逆光して過去へ行き、未来を変えてしまうというタイムリープものになっています。
 タイムリープによって世界線を変更することでメタバース設定の導入になっているのは展開として自然ですし、そこで留めたことも功を奏していると思います。

 その昔は、タイムリープとメタバースは別ジャンルでした。過去を変えることで未来が変わるという設定もあくまで同一世界線で行われているもので、過去を変えなかった世界線と変えてしまった世界線が複数同時に存在するというメタバースにすることにストーリー上の意味がなかったからです。
 
 アベンジャーズのMCUでは、それぞれの世界線を行き来できてしまうため行き来することで生じる未来についてあやふやになっていますし、もはや過去もただの別宇宙に見えてしまいますが、本作では自身の時間軸である未来が変わるというよりも過去に干渉したことでその瞬間に分岐して世界が変わってしまい、変わってしまった世界を元に戻すため過去の自分とバディを組んで別の世界線のバットマンと共闘する設定です。ぎりぎりMCUと差別化が計られていることも巧みだなと思います。

 冒頭で世界線変更のフリとしてジャスティスリーグ版バットマンが登場しますが、バットモービルなどの活躍が恰好良いです。
「DCエクステンデッド・ユニバース」はバットマンが登場するとすべて持って行ってしまいます。ワンダーウーマンも登場し、姉御感を見せつけます。撮影当時にはおそらく決定していなかったのだと思いますが、本作の冒頭シーンをもってバットマンもワンダーウーマンも本フランチャイズから降板となりました。スーパーマンは前年公開の「ブラックアダム」のおまけシーンがラストカットとなりました。「DCエクステンデッド・ユニバース」はとにかくスーパーマンが大コケしたシリーズでした。あまりに旧時代的なヒーローとはいえ、スーパーマンあってのアメコミ・ヒーロー群なわけですから、もっと神格化して要するにメタバースだろうがなんだろうが宇宙最強ということにしておくくらいのリスペクトがあっても良いのではないかと思います。

 ザ・フラッシュが母親との死別を回避するために過去に干渉したことで世界線が変わり、ジャスティスリーグ版バットマンが、1990年代に人気を博し、ある意味アメコミ・ヒーロー映画の道を切り拓いたティム・バートン版バットマンに変貌してしまい、マイケル・キートンのバットマンが蘇りました。この手法はまんま2021年公開の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」です。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」がいかに画期的な作品であったかを思い知ります。
 ちなみにオチは1997年公開の「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」からジョージ・クルーニー版バットマンです。この時点でストーリー的にも現実的にもベン・アフレックの降板が印象づけられます。
 ワンカットですが、クリストファー・リーヴのスーパーマンとヘレン・スレイターのスーパーガールが登場したことは胸が熱くなりますし、ニコラス・ケイジのスーパーマンという謎カットも妙味となっています。

 スーパーガールといえば、本作で初登場ながらも、またもや早々に死亡してしまうのが残念ですが、サッシャ・カジェが魅力的でした。軍人口調で翻訳された橋本愛の吹き替えも良かったので単独作品を期待してしまいますが、ありそうでないということかもしれません。
 リブート後のフランチャイズは「DCユニバース」として「ジャスティス・ソサエティ」で展開されそうですし、スーパーマンは新キャストでリブートが決まっているようなので、スーパーマンとは基本共存してこなかったスーパーガールはやはり登場しないのが自然なのかもしれません。
 ちなみにスーパーガールのアクションはブラックアダムのような完全CG表現で、もはや戦っているのかどうかも不明瞭な瞬殺なので見せ場としては逆に弱い印象でした。

 本作はストーリー的には父親の無罪を勝ち取って、完全完結していますが、「DCエクステンデッド・ユニバース」のファイナルであると同時に「DCユニバース」の前半に組み込まれるということなので、ザ・フラッシュの活躍は今後も描かれるのかもしれませんが、このあたりの曖昧さも迷走感を与える要因なので、しっかりしたフランチャイズになるのかなという思いが、本作が良かっただけに気がかりです。