DCエクステンデッド・ユニバースの12作目で、2019年公開「シャザム!」の続編となるコメディ映画です。

「哀れなるものたち」は大人の頭に子供の頭脳を移植した女性の冒険を描いた風刺劇でしたが、本作の設定も実はおなじで、マッチョな大人のヒーローなのに頭脳は子供のため、行動も言動も幼稚で無邪気というドタバタ・コメディです。

 昨年くらいから指摘されるようになったのはアメコミヒーロー映画が食傷気味になりつつあることです。
 マーベル系は昨年公開の「マーベルズ」が33作目となり、新規にとってハードルが高くなる一方でしょう。個人的には単独作品を減らして集合ものだけでも良いように思いますが、それではフランチャイズとして成立しないですし、ストーリーを直結させる以上、あまりブランクを空けられないので、破綻するまで突っ走るしかないということかもしれません。

 DCエクステンデッド・ユニバースはあからさまに迷走してしまいシリーズの途中でリブートをするという粗技でテコ入れをしながらも散漫な印象を拭えずにいました。

 結局、本作をもって「DCユニーバース」とフランチャイズ名を変更し、ジャスティスリーグから、ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)へと世界線がシフトしたのだと思います。もちろんリブートありきなので、今後どういった展開になるかは予想するだけ無意味ですが……。

 原作ではジャスティスリーグとは別の世界線にジャスティス・ソサエティというヒーローチームがあり、ザ・フラッシュやグリーンランタンはそこに属している設定です。本作ではシャザムがジャスティスリーグではなく、ジャスティス・ソサエティから勧誘を受ける展開になっています。

 ジャスティスリーグの主要メンバーであるワンダーウーマンが出演する本作はジャスティスリーグからジャスティス・ソサエティへと移行する過渡作品といえます。

 DC系は「ジョーカー」や「ザ・バットマン」というシリアル路線は成功をしていて、ファミリー映画指向のDCエクステンデッド・ユニバースは、「バットガール」がお蔵入りとなり、その後、単独作品として唯一成功していた「ワンダーウーマン」シリーズが打ち切りにしました。
 それでもアメコミヒーローの祖であるスーパーマンだけはデヴィッド・コレンスウェットにキャストを変更し、元祖ではなく後追い参加という形でリブート版がスタートするようです。「マン・オブ・スティール」から始まったジャスティスリーグのシリーズとの大きな相違点といえます。
 今後は、「ジョーカー」のシリーズと、「ジャスティス・ソサエティ」のシリーズの2本立てで展開継続されるのであれば、ジャスティス・ソサエティは徹底的にファミリー映画路線になるのではないでしょうか。

 その意味では、ドタバタ・コメディである本作はジャスティス・ソサエティというフランチャイズを象徴する作品といえるかもしれません。

 個人的にアメコミヒーローものをトーンダウンさせている要素は以下の3点と感じています。

・神々との戦い
・ヒーローの顕在化
・マルチバース(多元宇宙)

 フランチャイズとして各作品と合流したことで、ヒーローが悪魔ならまだしも神々と対立するのは、無敵と万能の戦いを描くようなものなので人間の存在があまりにも些末になってしまいました。
 多くのヒーローが世界を救う物語を直結で展開していく都合上、ヒーローの活動が隠密ではなく、白昼堂々と行われ、SNS社会においては世界中でリアルタイムに共有されるため、結果的にヒーローが有名スターのようなポジションになり軍隊や警察の存在意義が損なわれ、ヒーロー活動がお仕事になってしまいました。
 マルチバースは様々な世界線を互いに行き来できるため、世界観としての縛りが緩和され、要するに「なんでもあり」になり、もはや世界線という概念すら希薄なものとなりました。

 上記により市井の人々が物語の中心に存在できなくなり、ヒーロー同士の内輪もめとか、大切なひとを救うというよりも、逃げ惑う群衆とその救助というモブでしかないことで、実は観客の共感性を失ったのだと思います。

 シリアス路線は、主人公の主観で物語が展開される為、観客は感情移入が容易ですが、ファミリー映画は、お祭りを傍観しているという印象です。

 本作は完全にファミリー映画のコメディとして振り切っているので、そこをきっちり割り切れば、大バジェットのB級映画として十分に楽しめます。
 130分という大長尺の上映時間がもう少し短くなれば、リピーターも増えるのではないでしょうか。昨今の長尺作品には脚本と尺が見合っていないものが散見されるように感じます。

 前述のようにガル・ガドットのワンダーウーマンは打ち切り降板が決定しているので、本作と次作の「ザ・フラッシュ」へのゲスト出演が見納めとなります。
 また、ギリシャの神アトラスの娘三姉妹の末っ子を演じたレイチェル・ゼグラーはとても可愛くスピルバーグのリメイク版「ウエスト・サイド・ストーリー」でのマリア役で歌声も披露していましたが、2025年公開予定の「白雪姫」の実写版にガル・ガドットと共に出演し、主役の白雪姫を演じることで、ディズニーファンの心を色々な意味で揺さぶっています。