元BiSHのアイナ・ジ・エンドを主演に起用した岩井俊二監督の音楽映画です。

 岩井俊二監督の音楽映画というと1996年公開の「スワロウテイル」を思い出しますが、本作はアイナ・ジ・エンドという現代の若き歌姫と、彼女の所属グループのBiSHが6月29日に解散したばかりということが本作の注目度を高めたといえます。

 普段は声が出しづらいけれど歌は大声で唄えるという主人公は路上ミュージシャンです。そこに広瀬すず演じる謎のセレブ女性が現れ、パトロンになるのかと思いきやマネージャーになるという意外な展開から、彼女たちの過去へと遡っていきます。

 先の大震災を中心に据え、震災孤児を巡るファンタジーになり、主演のアイナ・ジ・エンドは二役を演じるという岩井作品ではお馴染みの手法が本作でも使用されています。

 ところどころ引っかかるところはあるものの現代寓話として、いつもの岩井ファンタジーなので、そこは意識的にスルーします。

 本作はとにかくアイナ・ジ・エンドの歌唱を作品の柱にしています。彼女の自作曲も7曲程使用されますが、小林武史が渾身の1曲を提供しています。
「スワロウテイル」の「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」も色褪せないパワーソングでしたが、本作の「キリエ・憐れみの讃歌」も佳曲です。ボレロのようなリズムパターンも映像の世界観と合いまって効果的です。

 岩井ファンタジーは意外と未来への明示が希薄です。過去の邂逅は深堀りをしていきますが、現在に帰結して、その後未来へは意識が向かいのは意外と珍しい作風です。

 本作も路上ミュージシャンの成功譚としての未来は想定されていません。プロになるのかという問いに、わかりません、今が良ければそれでいいですといった返答をするあたりもまさに岩井ファンタジーの特色といえるかもしれません。

 ファンタジーとは夢物語で、夢から醒めたら現在だからなのかもしれません。