手紙をモチーフにした岩井俊二の小説を自ら映画化した作品です。

 IT時代になり、手紙というツールは廃れ、ペンフレンドはもちろん年賀状という習慣も失われつつあります。
 そんな現代において、あえて手紙の物語を描くことが、もはや挑戦というのが興味深いです。

 25年振りの高校の同窓会に亡くなった姉のことを報告に行った主人公が姉と間違われ、姉に恋をしていた小説家とアドレスの交換をしたものの、スマホを水没させてしまい手紙を出すところから物語がはじまります。

 スマホを封じないことには手紙が機能しないわけですが、現代人は即時復旧を目指すだろうから、その辺りはファタジーということになります。

 思えば手紙が廃れたと同時に「個人情報」に対するセキュリティ意識が高まり、不用意に住所を公開しなくなりました。主人公は手紙に住所を記載しなかったことから、小説家は卒業名簿に掲載されている実家に返事を出します。それを亡くなった姉の娘が開封して、さらにまたなりすましで手紙を出すというスクリューボールコメディのような設定が面白いですが、コメディではなくシリアスに描いているところがいかにも岩井作品です。

 行き違いやなりすましはドタバタ劇として魅力的ですが、あえてそれをシリアスに描くことで岩井ファンタジーになっているという作家性には改めて驚きます。
 筆跡という自筆の手紙ならではの要素が欠落していることも、いかにもファンタジー映画です。

 スマホ世代は本作を見て、手紙っていいなと感じるのでしょうか。

 主人公が母校を訪れた際、風景の中にあの頃の彼女たちを見つけるクライマックスシーンはとても良いです。

 なにかと過去に戻りたがる岩井作品ですが、時間と空間の使い方がとても巧みです。

 携帯電話の普及で、恋愛が大きく変わりました。便利になったことで手軽化されてしまい人間関係も軽薄になるといった批判もありますが、本作は電子メールやチャット機能を否定しているわけではなく、「文通」というコミュニケーションを純粋に描いたことで、皮肉や風刺のないファンタジー映画になっています。

 それ故に、その人がストレートに表現される「筆跡」が欠落してしまったことはやはり残念です。このモチーフがいかにコメディ的かということなのだと思います。