「ハウルの動く城」と上映が重なってしまっては子どもの動員は望めないでしょうというのがこの作品。
 日本の親子はみんな「ハウルの動く城」へ流れたのではないでしょうか。
 そんなわけで「ファインディング・ニモ」があれほどのヒットを記録したにも関わらず客入りはまずまずという印象のこの作品です。

 アメリカン・レトロ・テイスト満載のホームドラマ・ファンタジーですから、それだけでも日本でウケにくい作品といえます。
 けれど、この手のファミリー映画はアメリカではちょっとしたブームです。一家全員で冒険とか一家全員がスパイといった映画がヒットしています。

 ピクサーは毎度毎度、パターンを完全に変えて、しかもCGの技術面は必ずなにか挑戦的なことをして、実にバイタリティのある制作を行っています。
 その意味ではどれも比較的子どもの目線で語られていたのに対して、この作品は中年サラリーマンが主役とかなり異色感があります。全体的なトーンがスカッと明るくないのもそのせいかもしれません。

 ピクサー的には初めて真っ向から人間を主役に描くということでその技法の開発が大変だったようですが、線画チックなキャラが人間っぽく動いているのは、この作品の魅力のひとつです。

 設定はトリッキーですが、ストーリーはいつものピクサーです。なぜならピクサーの長編映画は一貫してサクセス・ストーリーだからです。

・飽きられた玩具
・力の弱い蟻
・怖くない怪物
・臆病な熱帯魚
・活躍できない英雄

 社会的には劣勢であると判断されてしまうコンプレックスを抱えた主人公たちが表舞台に出て自信を取り戻すストーリー。ピクサー作品はすべてこの筋立てで制作されています。

 人生における光と影、陽の当たる場所へと一歩を踏み出す物語です。

 愛とか恋に向うだけではない勇気と人情。ドラえもん映画もおなじテーマが繰り返し描かれています。
 大人が子どもたちに教えなくてはいけないもの、それは恋愛でも正義でもなく「勇気と友情」なのかもしれません。

 そんなピクサーはジョン・ラセターがジョージ・ルーカスの工房から独立して立ち上げたCGアニメ制作会社です。
 世界初のオールCG長編アニメ「トイ・ストーリー」からずっとディズニー社の資本で制作していましたが、いよいよ次作を最後にディズニーとの提携は終結ということになります。
 ディズニー・ワールドに多くのキャラクターを投入してきたピクサーですから、痛いのはディズニーの方でしょう。
 CGアニメの会社や部門がも次々と新設されている昨今、ディズニーのテイストを抜きに、どんな作品を制作するのか楽しみです。

 ちなみにディズニーとの最後の提携作品である次作はもう劇場で予告編が観られます。擬人化したレーシングカーが活躍する作品です。ちょっと苦手なパターンです。「機関車トーマス」とかもまったく興味ないのですが、あなどって観るとすっかりハマっったりするのかもしれません。