夢の話ー2 | オーナーの読書室

夢の話ー2

尼崎はほとんどが市街地であって、当然そんな大草原などあるはずがない。もちろんこれは夢である。夢の中では時空間の区別がなく、過去に経験した時間と、空間が無秩序に混ざりあい、しかも合成されて、別のものとして出現する。今、むこう側に見えている緑の手前には、大きな谷がある。この谷という風景は、過去に体験した私の経験が多分に影響していると思われる。まず、少年時代、私はボーイスカウトの活動で、数え切れないほど六甲山に出向いている。西宮市と神戸市にまたがる六甲山といえば、ハイキングコースで有名な、お手軽な山と思われがちであるが、コースによってはハードな部分もある。それは例えば、住吉川の谷川をそのまま登って、一気に頂上を目差すコースで、急な登りがある反面、頂上までのアタックにかかる時間は最短となる。山頂のすぐ下の「出会い橋」という地点まで、阪急の「住吉川」の駅から出発して、ほとんど休憩をとらずに、この「出会い橋」まで登るのである。ここまで登山の装備を担いで、急な谷川のコース、これは歩きやすい山道とは違って、歩きにくい谷川そのものを攻めるのは、やはりかなり苦しい。ハイキングというレクレーションではなく、ボーイスカウトでいうところの「訓練」」なのだ。出会い橋で飯ごうすいさんをして、昼食をとった後、休息もほどほどにして、山頂アタックとなる。これも最後の苦しい登はんだ。そのかわり、山頂到着は、一時か二時ごろで、その後はゆっくりと尾根伝いに西の宝塚めざして歩いてゆく。これが「東六甲縦走コース」といわれるもので、一日中かけて歩き続けて、かなり体力を消耗するハードなコースである。


従って「谷間」という風景は、わたしにとっては先ず、「苦しいもの」というイメージがつきまとっている。またそれだけではなく、ラスベガス郊外にあるフーバーダムに行く途中にある広大な谷、谷といってもそれは広大な砂漠で、はるかむこうにかすんで見えている山に対する「谷」で、通称そこは「地獄の谷」と呼ばれている。その荒涼とした風景も「楽しい」とは言い難い。また、東北に出張した際、東北自動車道沿いに見た北上川が形成する谷も広大で、緑ゆたかで、印象深いものであった。今見ているむこう岸の豊かな緑は、北上川の風景のようだ。


また、谷とは直接関係ないのだが、私はこれまでの仕事柄、多くの土木現場を見てきた。超大型の土木機械が、すごいペースで山の土砂を取り除いて、平面な土地をつくりあげる。土木の仕事が好きな人間にとっては、自然に挑戦する技術の勝利のように見えて楽しいかもしれないが、私にとっては、それもやはりどこか苦痛をともなう風景であった。これまで幾度となく見た土木現場の夢は、いつもどこか攻め立てられているようで、楽しいものではなかった。



―――つづく