市民運動会で

大人の綱引きに参加した。

若いママたちは既に筋肉痛を訴えていたが、

私の痛みは忘れた頃にやってくる。 ( ̄_ ̄ i)




      坂  道     第七話



 秋の学園祭に向けて、社会福祉研究会では新たなt活動が加わった。その年のテーマは、『障害者と自立』。障害者が地域で生きていくために必要な事柄を、障害者自身に直接取材してレポートすることになり、信子は範夫他2人の先輩部員と共に、ケンタという重度障害者のアパートを訪ねた。

 ケンタは骨形成成不全症という障害を持ち、生まれつき骨が折れやすく、30歳近い今は座ることさえできずに、成長の止まった体で仰向けに寝たきりのまま、親元を離れて一人で暮らしていた。

 知人に頼んで寝台のような車椅子で外に出て、駅前でビラを撒いて介護者を募り、食事からトイレから入浴まで何もかも健全者の力を借りて生きていた。だが、精神的に全く卑屈な部分は感じられず、彼は彼でなければできない障害者としての主張を、学生達を前に堂々と述べていた。

 肉体的に不自由な分、ケンタの演説はまるで機銃掃射なみ、小さな体ながら力のこもった内容と熱意に、普段は論争好きなはずの研究会のメンバーはすっかり圧倒されていた。

「健全者の皆さんが少しずつ手を貸してくれたら、社会の構造が障害者向けにできていなくても、僕らは生きていくことが出来ます。ほんの少し時間を使って、障害者と一緒に食事をして風呂に入る、世話をするのではなく対等な人間関係の延長として、共に過ごしていく中で、自然な流れとして介護をして欲しいのです。皆さんにはいますか? 障害者の友達。僕はまず皆さんに、介護活動を通して障害者の友達を作ることをおすすめします」

 誰もが神妙に黙り込んでいた。街で暮らす障害者の実態を取材しに来たつもりが、活動の仕方で障害者本人から予期せぬアドバイスを受けて、範夫を始めとする学生達はすっかり畏まってしまったのである。

 その中にあって、やはり信子は、自分には障害者の身内がいる、生活の中に自然な形で障害者が存在しているという点を、密かに誇らしく感じていた。

「早速なんだけど」

 健太が多少声音を変えて言った。

「誰か、僕と一緒に銭湯に行ってくれませんか?」

 早速介護の要請である。 一同が顔を見合わせた。もちろん女の信子はフリーパスであるから、彼女だけは先輩達の戸惑う様子を密かに面白がって傍観していた。

「彼の裸も見られますよ」

 夕食の準備のために部屋に来ていたケンタの友達介護者が、冗談交じりに助言した。一同は笑うに笑えないと言いたげな表情を浮かべながら、互いの腹を探り合っているようだった。ケンタの演説を聞いた直後に、「友達も介護もお断り」などとは、とても口に出来ない。

「じゃあ、僕が」

 範夫が率先して手を挙げた。続いて二年生の部員も、おずおずと介護を申し出た。

「あ、女の子はいいからね」

 ケンタは信子をまっすぐに見つめて笑った。範夫が一旦頷いて訴える。

「彼女は、とても熱心に女性障害者の介護をしてるんです」

「そうなんだ」

 範夫が人前で自分の活動を評価してくれたことが何よりも嬉しく、信子は満足げな笑みのままケンタに向かって頷いてみせた。


(つづく)