今日のお昼はカップヌードルでした。

家族みんな大喜びです。

なんで~~~? ( ̄□ ̄;)



    坂   道    第六話


 だが、もちろんそのような生意気なセリフを年上の代表に対して堂々と口に出来るほど、信子は勇気のある学生ではなく、せめてもの抵抗として遠まわしに彼らの活動の仕方を批判してみる。

「本当に差別問題を学ぶなら、当事者と付き合うとか本を読むとか、そういう方法でもいいと思うんですけど」

「うん。それもそうだね」

 範夫は頷いた。

「じゃあ、君にはそういう本でも貸してあげようかな」

(あの、そういう意味で言ったのではないんですけど。それに当事者と付き合うっていうのが大切だと思うんですが)

 やはり心の中で呟いて、反発したつもりになってみる信子だった。

 そして翌週の会合の場で、またしても範夫は彼女に近づいてきた。彼が手にした紙袋には、難しそうな単行本が五冊以上は詰まっている。

「これ、よかったら読んでみて」

 中を覗き込むと、『解放部落闘争』とか『障害者解放運動』とか『成田空港闘争写真集』といった、普段の彼女の生活には全くご縁のないタイトルが印刷された背表紙がならんでいる。

「あのう」

 素直に有難うございます、という気持ちにもなれずに戸惑っている信子の手に、範夫はいきなり自分の手を馴れ馴れしく伸ばすと、無理矢理その紙袋の取っ手を握らせた。

「これなら、君が好きな時間に勉強が出来るでしょ。ちょっと重いかもしれないけど、期限なしで貸してあげるから、持っていってよ」

「はあ、有難うございます」

 強引というのか無邪気というのか、範夫のまっすぐなお勧めの前に、信子は断る意志を失っていた。

 それらを学生寮に持ち帰り、2人の先輩と共同で使っている部屋の棚に並べると、英語学を専攻している女子大生の書棚の一部は、たちまち過激な活動家の思想によって蹂躙されたかのように、様相を一変させた。

 先輩は驚くよりも先に笑いこけながら、後輩の書棚の変化を許してくれたが、信子は肩身が狭かった。自分の意志でこのような本を並べたわけではない、共同部屋において他に置き場がないから仕方がないのだ、と彼女は自身に何度も言い訳を試みた。

 それでも、せっかく持ち帰った本である。信子はそのうちの一冊、『解放部落』という重々しい文字が表紙をでかでかと占領している本を手にとって、適当にページをめくってみた。本はどれも比較的綺麗で、何度も読み返したという形跡は全くない。見慣れない漢字の言葉が連なる紙からは、ほのかに青年の汗のような臭いが立ち上ってくる。

(先輩の部屋の臭いなんだろうな)

 信子はほんの一瞬、開いたページの上に顔を伏せて静かに息を吸い込んだ。


(つづく)