インフルエンザの影響で、

いろんな行事が中止になる中、

次の月曜日は市民運動会だ!

何を着ていこうかな?


  坂   道  第四話


「そうなんですかあ」

 信子と祥子は声をそろえて、ほとんど感情のこもらない返事をした。この学生が何を言おうと、田中範夫が素敵な先輩であることには違いなく、過激な活動家であるという女子大生が腰を引きそうな紹介の仕方も、結局はこの学生の範夫に対するつまらない嫉妬心の表れなのだろうと、信子は解釈した。

 一方の祥子も、学生の一言などどこ吹く風といった風情で、というか、範夫の知られざる一面にますます魅力を感じたかのように、熱心に彼に視線を注ぎ続けていた。

 だが、結果的に範夫とお近づきになれたのは信子の方だった。

 彼女は、翌週から始まったサークルの場において紹介された、障害者の介護活動に積極的に参加したのである。家族と暮らしている脳性まひの女の子の入浴の手伝いや、親元を離れてアパートで自立生活をしている車椅子女性の身辺の世話などに。

 障害者が参加するお花見やピクニックなどの行事の介助という、楽しげな活動は人気が高かったが、信子は障害者とじっくりと付き合えることを選んだ。障害者の世話を口実にして、健全な介護者同士が仲良くなるという構図に漂う軽さが、彼女は許せなかったのだ。

 信子には背負っているものがあった。

 自分には障害者の妹がいるという自負である。

 サークル活動をやめたら、それでつながりも絶えてしまう、自分は、そんな思い出作りのような浮ついた気持ちで障害者と付き合える立場ではないのだ、という高い自意識が彼女には存在していたのだ。

 祥子が男子学生も参加する活動を好むなら、信子は男子学生が参加しない女性障害者の入浴介助や身辺の世話を選んだ。何しろ脳性まひの女の子は体が大きいので、信子自身も服を脱いで一緒に入浴しないと着ているものがびしょぬれになってしまうのだ。さらに、介護者仲間の、

「障害者だけが裸をみせるのは差別的でしょ?」

 というセリフにも影響されて、信子は男子禁制の活動ばかりに没頭したのである。

 その一見高潔な姿に、代表の範夫はひどく感心したらしい。

「新人なのに、よくやってくれてるね」

 集まりの日、雲の上のような代表からそんなお褒めの言葉をもらった信子は、自身が天にも昇るような気持ちだった。祥子を出し抜いて悪いなとは思ったが、余り熱心に活動に参加しない彼女よりも、積極的に動く信子が注目されるのは無理もない。

「いえ、とんでもありません」

 恐縮して顔を赤らめ、うつむいた彼女の頭の上に、明るく爽やかな笑い声が、まるで陽光を受けて輝く細かな枯葉のように降り落ちた。


(つづく)