雨の夜のコンビニ みらあじゅの恐怖博物館⑧ | 星導夜

星導夜

何気ない日常にも素敵なことが満ち溢れているように思います
日常のささやかなよろこび、楽しみを書き留めてみたいと思います

わたしは「恐怖博物館」の学芸員(キュレーター)をつとめるみらあじゅです。

ようこそ当恐怖博物館においでくださいました。  

私の創作した恐怖話がたくさん

この博物館には収められておりますよ。

今日は雨の日に因んだお話です。

「雨の夜のコンビニ」



とある地方都市の郊外にあるコンビニ。

僕は大学生の時にはここで深夜帯のバイトをしていました。

 その日は夜になってから雨が強くなり、10時を過ぎると客足はぱったりと途絶えてしまいました 。

そろそろ日付が変わろうという頃、濡れそぼった男が店に入ってきました。

 60代後半くらいでしょうか、着古した作業着にすり切れたキャップを身につけています。深夜帯の客は常連が多いのですが、見かけない顔でした。

「トイレ……」

 男はそれだけ言うと、僕の返事を待たずに店の奥に歩いていきました。

怪しげですが、とくに変なことをしたわけではないので文句を言うわけにはいきません。

僕は男がトイレに入っていくのを黙って見送りました。

「まさか強盗じゃないだろうね」

僕はカウンターの中の防犯ブザーに手が届くところに立って、じっとトイレを見張りました。

「まったく、あんなずぶ濡れで入ってこられたら、後でモップがけもしなければいけないし……」

 僕はそうぼやきながら床に目を落としましたが、不思議なことに床はどこも濡れていないようでした。

「おかしいなあ、あんなにぽたぽたしずくが垂れていたのに」

 僕は奇妙な気分になり、もう一度トイレに目をやりました。男がトイレに入って10分が経ち、20分が経ちましたが、男は出てきません。
 30分経っても出てこないので、さすがに僕は気になり様子を見に行くことにしました。

「お客さん、大丈夫ですか? 気分が悪いようでしたら救急車呼びますよ」

 僕はトイレのドアをノックしてそう言いましたが、返事はありません

「お客さん!」

 今度は強く叩いてみましたが、やはり返事はありません。ドアには鍵がかかっていないようでしたので、恐る恐る開けていると、中には誰もいません。

 

 僕はは呆然としたままトイレのドアを閉め、振り返りました。すると、店長の姿が見えました。

いつもなら店長も12時前には来ているのですが、その日は都合で遅れていたのです。

「どうした、Sくんなにかあったのかい?」

 僕が青ざめた顔をしているのを見た店長は、そう声をかけてきました。

そこで僕は店長は半信半疑のようでしたが、ひとまず防犯カメラの映像を確認してみることになりました。12時少し前のところから映像を再生してみると、男がやって来たちょうどその時間に、店の自動ドアが開くのが映っていました。しかし、入ってきたのは、あの男ではありませんでした。

 店に入ってきたのは霧のような白いかたまりでした。それは人が歩く速さで店の奥に進むと、ドアを開けてトイレに入りました。

 そして、20分後。

 トイレのドアの下の隙間から、白いかたまりは出てきました。玄関マットほどの厚みと大きさになったそれは、床の上をゆっくりと店の入口に向かって進んでいきました。

 映像にはその横を歩いてトイレに向かう僕の姿も映っていました。僕がトイレを調べている間に、それはむくむくとふくれあがって人ほどの大きさになりました。

 しばらくの間、そのままの大きさでもこもこ動いていたのですが、ふいに縮まって人の形になりました。それは、店長そっくりでした。

 「え!」

と叫んで、僕が振り返ると、店長はにやりと笑ってこう言いました。

「そうだよ、オレだよ、やっとわかったかい」