ジャズ喫茶    

■ 街のジャズ喫茶 ■



仕事が終わると僕は大抵、独りで街を彷徨した。


寮は会社の敷地内にあって、部屋に帰ってもなんとなく落ち着かないからだ。


それに、旧式のラジエーター・ヒーターに重油を送る音が朝早くからうるさくて眠れないのだ。


街へ出ると、いつも入るジャズ喫茶で音楽を聴くでもなしに、ぼんやりとする。


新聞を乱読してから、英会話の本のページを辿るもすぐにあきらめて鞄に放り込み、席を立つ。


あの頃は疎水や南禅寺、銀閣の辺りをよく歩いたものだ。


途中で湯豆腐をつついたり、骨董品屋を覗いたりした。


それに飽きるとオールナイトの映画館に入り、コートをかぶって眠った。


映画を見ない時はガレージから中古のマツダ・RX-7を出して、六甲山や高速の環状線を夜明けまで走る。


そして明け方、部屋に戻りアラームをセットするとそのままベッドに潜り込んで眠った。


目覚めると熱いシャワーに入って、制服に着替え、今日も僕はホテルに帰って行くのだった。



sa22c RX-7   

■ SA22C mazda RX-7 ■





菜の花   

■ 我が家のキッチンにて ■





マクロビオティックをやっている事もあって、叔父はよく野菜をくれる。


貰ったチンゲン菜の根っこを水を張ったボウルにいれておいたら、可愛い花を咲かせた。


昨年、父が他界してから家の中が寂しかったのだけれど、何かここだけ明るくなった感じがする。


花っていいものですね。


「ミニーナ・フロール」という曲があるのだが、こんな午後の陽だまりにはそんな唄がよく似合う。


たしか、ポルトガル語で「花のように可愛い女の子」という意味だったと記憶している。


小野リサさんの「ナモラーダ」というアルバムは僕のお気に入りの一枚だ。


リサさんの声は「北風と太陽」の太陽さんのような印象で、気持ちいい午睡へと誘ってくれる。


眠ってしまったら唄っている彼女に失礼なのだけれど。



小野リサ/ナモラーダ  

小野リサ
ナモラーダ
■ 「ミニーナ・フロール」収録。聴けば、たちまち癒しの世界へ・・・ ■






BAR






ピアニストと言っても演奏だけしていればよい、と言う訳ではない。




ホテルの従業員なのだから、ホテルの仕事がメインとなる。




開店前にモップをかけたり、カウンターを拭いたり、メイン・ダイニングに「本日のメニュー」表を取りに行ったりという雑用が就業時間の多くの割合を占める。




開店前、僕は客席に3分間だけ座ってみる。




こうしてお客様の視点から店を見回してみて、やり残している仕事はないかチェックするのだ。




こうしろと誰に指示されたわけでもないが、自分なりの工夫でやっている訳である。




開店してからも所謂「行列の出来る店」ではないので、お客様がお越しになるまではホテルのパンフレットを折って旅行代理店に送付する手配などを淡々とこなす。




そうしているうちに、席も埋まってくると僕はピアノの前に座る。




そして、「ムーン・リバー」とか「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス」などといったスタンダードを耳当たり良くアレンジして弾いた。




演奏する曲はその場の雰囲気に合わせなければいけない。




その為にはお客様の年齢層や服装、人数などで判断して選曲するのだがこれは経験がないとなかなか難しい。




僕は先任の先輩からのアドバイスを忠実に実行した。




だからお客様や上司からの評判は悪くなかった。




ピアノの上の灰皿にチップを置いてくれるお客様もいて、閉店前には僕にとっては結構な額になっていたりもした。




照明を落として店を閉めると、僕は貰ったチップをコートのポケットに突っ込んで一人で街へ出た。








  


Moon Beams/Bill Evans Trio


    

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