(劇評・12/25更新)「重ねた年月を」大場さやか | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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この文章は、2022年12月10日(土)20:00開演の劇団羅針盤『魔法少女続けました+LOVE!!』についての劇評です。

劇団羅針盤第55回公演のタイトルは『魔法少女続けました+LOVE!!』。公演チラシの裏にある文章は「あれから25年。私はまだ、魔法少女です。そして。」と締められている。25年もの間、彼女は何を思い、魔法少女であり続けてきたのか。興味が湧いた。羅針盤と言えば殺陣を多用した動きから見せるかっこよさが、劇団の特徴として挙げられる。今回は女性が主人公なのであろうから、どのように女性のかっこよさを、それも歳を重ねた女性の物語として、表現してくれるのだろうかと思っていた。

黒い舞台には、大きさの違う四角い箱状の物がいくつか置かれている。それらは四角に組んだパイプに布を張って作られているようである。背後には黒い壁があり、下手側には「精錬潔白」という文字が書かれた看板がある。その横にある箱の上には、ライオンのような黄色いぬいぐるみが置いてある。

アナウンス(声:矢澤あずな)が流れる。「レジ応援、お願いします」。しかしエプロン姿の吉乃森(宮崎裕香)は箱に腰掛けていて、動かない。そこはスーパーのバックヤードのようだ。店長(平田知大)が、万引きをした男性(能沢秀矢)を連れてやってくる。だが、彼は万引き犯ではなかった。スーパーのチラシに載った暗号を解いて彼はやってきたのだ。スーパーは、実は魔法少女「ジュエルウィッチバニー」(以下、バニー)の司令基地であった。バニーのファンである男性・太田は、バニーをサポートする魔法助手になることを志望している。吉乃森がバニーの正体であることを知った太田は、自分が憧れていたバニーとは違うと失望する。だが、秘密を知ってしまった彼は、司令基地で働かされることとなる。店内放送は出撃の合図だ。敵を倒しにバニーは出撃するが、彼女は強敵と引き分けて戻ってくる。なぜ強い必殺技が使えないのかと問う太田。宝石の力を使っているバニーが必殺技を使うには、お金がかかるのだと店長。そこで太田はフェスを開催し、ファンの力、お金を集めることを企画する。魔力が枯渇し、長時間変身できない吉乃森だが、気力を振り絞り舞台に臨む。

今作は二部構成となっていて、ここまでが前編となる。前編は、2022年7月に上演された『魔法少女続けました』の内容と同じであるようだ。前編中で最も気になったのが、魔法少女として吉乃森が戦う場面がないことだ。戦闘の場面は、平田と能沢が手を人に見立て、指を動かして表現するのである。少女ではなくなった女性が、どのように魔法少女であるのか、できれば役者が演じる形で観たかった。そして、彼女が重ねてきた25年間の思いをもっと吐露してほしかった。

続く後編は、大正時代の話であった。東雲ハル(宮崎裕香)の指揮の下、爺さん(平田知大)、マサシ(小松航大)、チヨ(澤田京華)が鉱物を掘り出す。それに、おキクさん(寺嶋佳代)が売りにくる材料も加えて、彼らは魔法道具と呼ばれる物を錬成している。その道具は、魔女という存在が使用しているようだ。そこに刀を携えた男(能沢秀矢)が現れる。男は世界を変えようと企む団体に所属しており、目的達成のために爺さんの力を必要としているのだ。この後編でハル達が作った魔法道具が、後世に受け継がれていくのだと思われる。前編と後編、それぞれの最後のシーンが重り合うイメージを見せて、物語は終わる。多くの人々の思いを乗せた魔法道具を手に、魔法少女という存在は戦い続けている。

羅針盤が届けるものはかっこいいものであらねばならない、のかもしれない。だから、歳を重ね若い頃のようには動けない姿は、見せにくいのかもしれない。この点で、今回のテーマである年月を経た魔法少女と、長く活動を続けている羅針盤は重なり合っている。しかし魔法少女というテーマを使い、長い活動の年月を描く試みは、上手くいっていないように思えた。若さを重要視する社会のイメージに、疑問を突き付けることを行っていないように感じられたのだ。若さがもてはやされるこの社会では、歳を重ねながら若く見える行動を取る人物が、嘲笑を浴びてしまうこともある。若さはまた、ルッキズムの問題にも絡んでいて、見た目のみでの評価は差別につながる。扱いが難しい題材であることは間違いがない。だが、あえてこの題材を選んだからには、舞台上で、歳を重ねてもずっと何かを続けてきたことへの羅針盤の思いを、生身の人間が演じる事によって、もっと伝えてほしかった。

以前のように動くことはできないのかもしれない。でもそれをネガティブにばかり捉えなくてもいいと思うのだ。どうにもならなさを越えて、それでもやりたいという、諦められない思いがあることは伝わる。かっこわるさの中にもかっこよさが滲み出ることがあるのではないか。その表現ができるだけの経験を、羅針盤は積んできていると思うのだ。


(以下は更新前の文章です)


劇団羅針盤第55回公演のタイトルは『魔法少女続けました+LOVE!!』だ。公演チラシの裏にある文章は「あれから25年。私はまだ、魔法少女です。そして。」と締められている。25年の間、彼女は何を考えて魔法少女であり続けてきたのか。興味が湧いた。羅針盤と言えば殺陣を多用した動きから見せるかっこよさが、劇団の特徴として挙げられる。今回は女性が主人公なのであろうから、どのように女性のかっこよさを表現してくれるのだろうかと思っていた。ただ、『魔法少女続けました+LOVE!!』』は、続編である。前作を観ていないので、ついていけるのかと不安もあった。

黒い舞台には、大きさの違う四角い箱状の物がいくつか置かれている。それらはパイプに布を貼って作られているようである。背後には黒い壁があり、下手側には「精錬潔白」という文字が書かれた看板がある。その横にある箱の上には黄色いぬいぐるみが置いてある。

アナウンス(声:矢澤あずな)が流れる。「レジ応援、お願いします」。しかしエプロン姿の吉乃森(宮崎裕香)は箱に腰掛けて休んでいて、動かない。そこはスーパーのバックヤードであるようだ。店長(平田知大)が、コートを着た男性(能沢秀矢)を連れてやってくる。彼がリンゴ3個を万引きしたらしい。吉乃森に後を任せて店長はレジ応援に入る。だが、彼は万引き犯ではなかった。彼はスーパーのチラシに載った暗号を解き、そこで指示された行動を取った。スーパーは仮の姿で、そこは魔法少女「ジュエルウィッチバニー」の司令基地であることが、2人の会話から明らかになる。ジュエルウィッチバニー(以下、バニー)のファンである男性・太田は、バニーをサポートする魔法助手になることを志望している。

しかし、吉乃森がバニーの正体であることを知ると、太田は失望する。自分が憧れていた魔法少女とは違うと。だが、秘密を知ってしまった彼は、司令基地で働かされることとなる。店内放送は、実は出撃の合図であった。敵を倒しにバニーは出撃するが、彼女は強敵と引き分けて戻ってくる。なぜ強い必殺技が使えないのかと問う太田。宝石の力を使っているバニーが必殺技を使うには、お金がかかるのだと店長。そこで太田はフェスを開催し、ファンの力、お金を集めることを企画する。魔力が枯渇し、長時間変身できない吉乃森だが、気力を振り絞り舞台に臨む。

ここまでが以前上演された『魔法少女続けました』の内容であるようだ。今回の再演にあたり前編としてまとめたためか、少々駆け足になっている感があった。そして内容だが、魔法少女として吉乃森が戦う場面はない。戦闘の場面は、平田と能沢が指を使って表現するのである。少女ではない女性が、どのように魔法少女であるのか、できれば役者が演じる形で観たかった。そして彼女の25年間の思いをもっと吐露してほしかった。

しかし、25年という年月を描くには困難がある。若さがもてはやされるこの社会では、歳を重ねながら若く見える行動を取る人物が、嘲笑を浴びてしまうこともある。若さはまた、ルッキズムの問題にも絡んでいて、見た目のみでの評価は差別につながる。扱いが難しい題材であることは間違いがない。だが、あえてこの題材を選んだからには、舞台上で、歳を重ねながら何かを続けてきたことへの羅針盤の思いを、もっと伝えてほしかったのだ。

年齢の問題を取り上げるのではなく、太田と吉乃森の二人の関係性から「オタクと推し」を主題として描く方向へ進むのかとも思ったが、そうではなかった。推しと共に年齢を重ねていく、オタクの葛藤と喜びを描く脚本にもなり得たように思う。

続く後編は、大正時代の話であった。東雲ハル(宮崎裕香)の指揮の下、爺さん(平田知大)、マサシ(小松航大)、チヨ(澤田京華)が鉱物を掘り出す。それに、おキクさん(寺嶋佳代)が売りにくる材料も加えて、彼らは魔法道具と呼ばれる物を錬成している。その道具は、魔女という存在が使用しているようだ。そこに刀を携えた男(能沢秀矢)が現れる。男は爺さんの元弟子で、爺さんを引き戻したいらしい。男は世界を変えようと企む団体に所属しており、目的達成のために爺さんの力を必要としているのだ。

後編でハル達が作った魔法道具が、後世に受け継がれていくのだと思われる。前編と後編、それぞれの最後のシーンが重り合うイメージを見せて、物語は終わる。多くの人々の思いを乗せた魔法道具を手に、魔法少女という存在は戦い続けている。

ただ、その敵の正体が判然としない。敵は男が所属していた団体だけではなさそうだ。他にも設定は盛りだくさんであったが、あれはどういうことだったのだろう?という疑問が多数残る。何より、魔法少女が長い間、戦い続けている理由を納得させてほしかった。

羅針盤が届けるものはかっこいいものであらねばならない、のかもしれない。だから、歳を重ね若い頃のようには動けない姿は、見せにくいのかもしれない。しかし、かっこわるさの中にもかっこよさが滲み出ることがあるのではないか。その表現ができるだけの経験を、羅針盤は積んできていると思うのだ。