※この文章は、2019年11月30日(土)19:00開演の北陸つなげて広げるプロジェクト『ポット ワンダー ワールド』についての劇評です。
開演待ちの時間、私は携帯を眺めていた。ふと気配がして顔を上げると、グレーの衣装の出演者たちが床に寝そべった状態で舞台上に入ってきた。客席の電気はついたままだ。始まったのかなとあわてて携帯の電源を落とす。出演者たちは床に張り付いたまま移動を続けている。しばらくして、場内アナウンスが入り、映像で観劇上の注意が流れる。映画館で流れる「NO MORE 映画泥棒」とほぼ同じ作りだ。時間のボリュームも同じくらいある。映像が流れている間も床には出演者がうごめいていた。出演者が登場した時点で作品が始まっているのだとしたら、ここまですべて必要だったのか疑問が残る長さだった。場内アナウンスと非常口の案内だけで十分だったのではないか。
すべての連絡事項が終わると、グレーの衣装を着た別の演者が、頭からスライディングで舞台右側からパフォーマンススペースの手前に滑り込んできた。その演者が一人の演者と共に舞台左袖に掃けると、人がいた場所を何人もの人が手で撫ではじめた。何かを掻き集めているようだった。右側後方からかごを持った女性が一人入ってきた。何かを拾うような動きを何度もしながら歩いている。床に寝そべっていたほかの演者も立ち上がって何かを拾うしぐさをする。何かを拾いながら全員が一度掃けて行った。
次の場面では全員がガラッと衣装を変えて出てきた。色とりどりのワンピース姿の演者が8人とスラックスとシャツ姿が2人。この後衣装チェンジはなく、エンディングまでいろんな場面が演じられる。朝、身だしなみを整える姿。演者の半分は化粧をする動作をしていたので女性の動きだろう。残りの半分はおそらく男性で、顎を手のひらでなぞる動作は髭剃りを表しているのかもしれない。その後、一人を除いたすべての演者が床に座ってポーチの中に入っている野菜で化粧をするしぐさをする。BGMは野菜を切る音。しかしこの場面で野菜はどう見ても食べ物としての扱われかたではない。口紅などの化粧品そのものだ。この前に表現していた化粧とこの場面の化粧、どういう意図でわざわざ違う表現をしているのだろうか。
その後、様々な場面が表現されていく。干したパンツを6枚すべて奪われる男。一列に並んで拍手する人々の前で順番に歌謡曲を歌ったり踊ったりする人たち。どこの集団にも混ぜてもらえない男はBGMが電車のホームの音が使われていたので、満員電車内を表現しているのか。集団に入れない男がうなだれていると、次々に人が現れて足を踏み鳴らしたり別の人の手のひらに顔を乗せたり、バラバラな動きをしていく。
最後は着ている衣装に合わせたような色のいろんな形の鍋を持ったパフォーマンスだった。「ポット=鍋 寄せ鍋のように 様々な人が集まってひとつの作品になる」。『ポットワンダーワールド』のリーフレットに書かれている文章だ。劇場という鍋に人や、様々な切り取られた場面が寄せ集められた作品だった。全体のまとまりが感じ取れなかったのは、私の受け取る力が足りなかったからだろうか。