この文章は、2018年11月17日(土)18:30開演の北陸学院高校演劇部『修学旅行』についての劇評です。
ある高校の沖縄への修学旅行の夜、女子部屋にて。宿泊先の旅館の和室に並ぶ5枚の布団。自分たちの部屋でどんな楽しい夜を過ごそうか、トランプか、枕投げかとわくわくする女子生徒。他の部屋に行って、同じ部の仲間で集まって盛り上がる生徒たち。就寝時間に部屋の見回りに来る教師。就寝前の恋バナ。好きな男子生徒の話題になった途端、隠そうとする優等生女子。好きな女子生徒に告白しようと、窓から3階の部屋に侵入する男子生徒。恋バナが原因で一人のメンバーがイライラし始め、そこから女の戦いが勃発し、枕投げへと発展。教師に見つかり部屋のメンバー全員が正座させられる。北陸学院高校演劇部によって上演された『修学旅行』(作・畑澤聖悟/演出・井口時次郎)は、ありふれた修学旅行のでの出来事を題材にした学園コメディだった。
この『修学旅行』が、青森の高校演劇部のために書かれ、全国で最優秀賞を獲得したのが2005年。当時の高校生がそのまま描かれたような作品だったが、13年経った今の高校生と大きく異なる部分はなく、北陸学院高校演劇部員たちが、同世代の登場人物たちをのびのびと演じ、リアリティがあった。特に好きな男子がかぶっていたことから、徐々に会話がトゲトゲした感じになるノミヤ(荒井莉子)とシャトミ(岡中杏珠)のやり取りでは、相手を直視せずにチクチクとつつき合う演技に臨場感があった。
この作品の初演はイラク戦争の時期だ。『修学旅行』は単なる学園コメディではなく、当時の社会情勢が直接的にも暗喩としても表現されていた。例えば、生徒の何気ない会話の中に、沖縄から大量のアメリカ兵がイラクへ向かっていると話すシーンがあった。また、自分の布団を踏まれるのを嫌がるノミヤが、私の領土に入らないでほしいと言う表現を使った。彼女にとっては布団を踏まれたくないという以上の意味はなかっただろう。また、ノミヤは、隣で幾度となく素振りをするソフトボール部のカキザキ(小杉恵生)に、素振りをする度に怖い思いをしていると訴える。カキザキは大丈夫だと言い張る。これは「キナ臭い」と言われていた時代の他国に対する恐怖感を表していたと思われる。一見学園コメディであるかのように見えるこの『修学旅行』には、随所にこのような仕掛けがなされていた。
コミカルさと当時の社会風刺とがうまく組み合わさった作品だが、2018年の今見ると違和感を覚える箇所があった。ラスト、並んで正座をさせられた同室の女子生徒がそのまま古今東西ゲームを始めるシーン。古今東西ゲームは同じテーマで名詞を一人ずつ挙げてゆくゲームだが、彼女たちは国の名前でゲームを始める。脚本上の指示だろうか、一人が「イラク」と言った途端、場が静まり、しばらくするとゲームが再開する。初演当時の社会背景を表した「イラク」の後の沈黙が、今の自分には、ぴんと来なかった。初演時、当時のイラク情勢を背景に上演されたことを想像すると、国名から受け取る深刻な印象が薄れてしまっているからだろう。この違和感は、イラク戦争を忘れかけている私への警鐘だったのだろうか。