(劇評)「また一つ観劇の愉しみが増えた」ino | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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本ブログは金沢市民芸術村ドラマ工房が2015年度より開催している「かなざわリージョナルシアター」の劇評を掲載しています。
劇評を書くメンバーは関連事業である劇評講座の受講生で、本名または固定ハンドルで投稿します。

この文章は、2017年11月2日(木)20:00開演の表現集団tone!tone!tone!『ダブリンの鐘つきカビ人間』についての劇評です。

 表現集団tone!tone!tone!(トントントン)第14回公演『ダブリンの鐘つきカビ人間』(演出:滝川慎哉)を見た。後藤ひろひとの脚本、G2(ジーツー)の演出で何度か再演された人気作品の、金沢の劇団tone!tone!tone!版である。存在は知っていたものの未見だったこの作品を、私はこの金沢市内にある声優学校の卒業生で作られた劇団の公演で初めて見ることとなった。
 
 会場は金沢市民芸術村ドラマ工房PIT2。開場時にはアイルランド民謡風の曲が流れていた。舞台には何かの建物の一階部分の外壁だろうか、ヨーロッパ風の淡いイエロー系のレンガ造りの壁が舞台を埋めつくかのようにセットされ、中央には空洞があった。舞台下手には鐘つき台へとつながる階段。上手にも階段とその先にバルコニーがあった。これらの舞台セットを見るだけで、これから始まる物語への期待が高まった。

 物語は、中世アイルランドを思わせる不思議な土地で起こった、カビの生えた醜い容姿の男、カビ人間(江崎裕介)と町の人たちにまつわる悲劇だ。その物語を当時市長だった男(宮下将稔)が土地に旅行に来たカップル真奈美(増田美穂)と聡(四方直樹)に語る場面から、舞台が展開してゆく。町の教会の鐘つきであるカビ人間、心は美しいがその容姿のためにみんなから嫌われている彼は、心とは逆の言葉を発する奇病にかかった女の子、おさえ(宮崎裕香)に恋をする。実はこの二人、町に発生した疫病によって、カビが生えたり、思ったことと逆のこと言うようになっていのだ。彼らだけではなく、その町のみんなが疫病により何らかの異変が起こっていた。ある者は目が飛び出し、ある者は体に電流が走り、またある者は背中に羽根が生えた。そんな町を救うべく、おさえの婚約者である戦士(上田真大)が伝説の剣を探しに行くこととなる。そしてなぜかその物語の中に、時代をさかのぼって真奈美たちカップルも入り込み、剣を探しに行くことになる。剣探しの冒険の裏では、町の教会の神父と市長の陰謀が進行し、やがて町全体を巻き込む悲劇が生まれる。

 心と容姿の美醜、コミュニティからの疎外、集団意識の持つ恐ろしさ、そこに真実の愛や神の存在など様々な重たいテーマが混在していた。一方では、中世ヨーロッパとはかけ離れた「群馬水産高校」の歌や、剣を探し出すための試練にクイズ番組風のやり取りなど、小劇場的なコメディ要素が、本筋と絶妙なバランスを保ちながらうまく散りばめられていた。

 今回の公演は、ゲスト出演者2名以外全員が劇団オリジナルメンバーだった。団員は出演者以外にもいるのだろうか、個性的な登場人物が多い中で、うまくその役に合ったキャスティングがなされていた。キャストの中では何を考えているかわからない怪しい雰囲気の市長や、身のこなしが軽やかで動きがきれいな天使(越場由貴)、また、人間味のある勝気な女性の真奈美らが印象的だった。

 プロの作品は見ることがあっても、アマチュア劇団に対して足が遠のいていた自分にとって、tone!tone!tone!の公演は期待値を超えて見ごたえを感じさせるものだった。地方に住む者にとって、また、演劇ファンではない者にとって、現代の小劇場作品は身近ではないが、今回のように地方の劇団が質の高い上演をすることで、演劇って面白い、演劇がもっと見たいと思う人が少しでも増えたらいいと思う。G2演出版が未見だった私も、それがどのようなものだったのだろうかともとても興味が湧いた。私にとってまた一つ観劇の愉しみが増えた。そんな舞台だった。