「ドヤ顔。」
-走り始めた頃④/⑦-
2013年4月30日。
横浜で走り始めて、15日後。
その日は早番で、仕事は0時まででした。
仕事を終えてから、大さん橋から海沿いを走っていました。
深夜1時前後。
赤レンガ倉庫の脇まで来た時です。
何か、声のようなものが聞こえた気がしました。
「助けて。」
そう聞こえたような気もします。
ただ、はっきり聞き取れたわけではありません。
気になって海面を確認していると、赤レンガ倉庫の警備員さんもやってきました。
警備員さんが懐中電灯で海面を照らしました。
女性が、
仰向けで浮いていました。
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私は、
「どうしますか?」
と聞きました。
警備員さんは、
「私は泳げないのでお願いします。」
と言いました。
暗く、黒く見える海へ入るのは躊躇しました。
でも、
私が行くしかありません。
「分かりました。
警察と消防に連絡してください。
それから、私が入ったら、
そこの浮き輪を投げてください。」
Runtasticを止め、iPhoneを地面に置きました。
服を脱いで、パンツ一丁になります。
服を着たままでは危険だから。
……
ではありません。
iPhoneを壊したくなかったからです。
そして、
海へ入りました。
15日前。
Facebookのコメント欄で、
「ノリでダイブ出来ないのが残念(笑)」
と書いていました。
実際は、
足からです(笑)。
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壁面の貝で、皮膚を傷つけた記憶があります。
それでも女性のところまで行き、警備員さんに投げてもらった浮き輪を女性にかけることができました。
しばらくして、水難救助隊が到着しました。
女性は無事だったと、後で聞きました。
私は警察署へ行き、事情を聞かれました。
毛布にくるまっていましたが、かなり寒かったのを覚えています。
その帰り。
ラーメンを食べました。
そして、Facebookにも投稿しています。
ただし、
人命救助については、
一言も書いていません。
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その投稿は、今も残っています。
「冷えた体を温めたくてダイエット中だけど
夜中のラーメンを敢行しました。」
さらに、
「今晩だけは勘弁してください。」
……
誰に謝っているのでしょうか(笑)。
その後は、
白は上品なコムタンのようだとか、
卓上のタンジャンを入れると辛味が増して美味しいとか、
ライスは我慢したとか、
普通にラーメンの感想が続きます。
そして最後は、
「体も温まったので帰ってサボりがちの腹筋してから寝ます。」
「良い夢を…」
で終わっています。
その少し前まで海に入って人を助けていた人の投稿には、
ラーメンと、
腹筋しかありませんでした。
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当時の私は、自分から、
「人を助けました。」
と武勇伝のように書くのは格好悪いと思っていました。
黙っている方が、
格好いい。
そう思っていました。
ところが、それから約3週間後。
5月24日。
中消防署から、感謝状をいただきました。
消防署長さんから、
「より社会貢献できるよう努めてください。」
という趣旨の言葉をいただいた記憶があります。
これは、
本当にうれしかったです。
私はそれまで、褒められるより怒られることの方が多い人生でした。
自分のしたことを認めてもらい、言葉までかけてもらった。
それは、その後も走る一つのエネルギーになりました。
だからといって、その日から心を入れ替えて、
「より社会貢献できる人間になろう。」
と努め続けたのか。
……
そこまで立派な話ではありません(笑)。
⸻
根拠発掘。
救助した4月30日。
Facebookに残っているのは、
「冷えた体。」
「夜中のラーメン。」
「腹筋。」
人命救助については、何も書いていません。
黙っている方が格好いい。
当時の【私】は、そう思っていました。
ところが、感謝状をもらった5月24日。
その考えは、
あっさり崩れます。
しっかり、
Facebookに投稿していました。
しかも、
長文です。
⸻
感謝状をもらったことだけを書いたわけでもありません。
12年前。
安房峠で単独事故を起こしたこと。
シートベルトをしておらず、フロントガラスに顔面を強打したこと。
意識を失い、たまたま通りかかった名前も知らない人に助けてもらったこと。
そこまで持ち出しています。
そして、
「あの時、繋いでもらった命を役立てる機会がありました。」
そう書いて、
12年前に助けてもらった自分から、
今回、人を助けた自分へ。
きれいにつないでいました。
事故も、
助けてもらったことも、
今回、女性を助けたことも、
事実です。
ただ、海へ入る時の私は、
「助けてもらった命を、
今度は誰かのために。」
そんなことを考えていたわけではありません。
「どうしますか?」
と聞いて、
「お願いします。」
と言われて、
海へ入りました。
出来事は、
本当です。
その出来事を、あとから一つの物語につないだのは、
当時の【私】でした。
⸻
そして、
表彰の時。
消防署の職員の方だったと思います。
「記念に。」
そんな感じで、写真を撮ってくれました。
私から、
「撮ってください。」
と頼んだわけではありません。
そこは、
悪しからず(笑)。
写真については、
棚ぼたです。
……
ただ、
その写真に写っている私は、
なかなかの、
ドヤ顔です。
写真を頼んだのは、
私ではありません。
ドヤ顔をしているのは、
私です(笑)。
やっぱり、
褒められたのが、
うれしかったんだと思います。
続く。
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