根拠発掘屋
「遅れてきた誕生日。」
-DEEP JAPANへ④/⑥-
右足首をひねったあとも、
歩くことはできました。
登りは、
それほど痛みません。
でも、
下りは、
激痛でした。
この大会は、
ストックポールが使えます。
もし、
持っていなかったら、
そこで、
リタイアしていたと思います。
登りは止まらない。
下りは無理をしない。
そう決めました。
⸻
暗くなり、
林道へ入りました。
小さな石を踏んだだけで、
激しい痛みが走ります。
折り返しのエイドで、
靴と靴下を脱ぎ、
足首を確認しました。
まだ、
大きく腫れてはいません。
スタッフの方が、
椅子を用意してくれました。
私は、
言いました。
「まだ時間はあります。
歩ける限り、
リタイアはしません。」
すると、
「また来てくださいね。」
と、
笑顔で送り出してくれました。
その一言で、
もう一周進む力が、
湧きました。
⸻
三周目を終えたのは、
午後10時前。
湿布を貼る。
足首を固定する。
補給する。
そのつもりでした。
ところが、
ゲートをくぐると、
「あと三分で出ないと、
失格です。」
と言われました。
足を痛めているので、
手当だけでもしたい。
そう伝えました。
でも、
関門は、
到着ではなく、
出発時刻だと言われました。
慌てて、
補給を済ませました。
その途中で、
ようやく気づきました。
周回数を、
間違えられている。
「これから四周目です。」
そう伝えると、
「セーフ。」
と返ってきました。
私は、
腹が立ちました。
「もういいです。」
そう言って、
そのまま出発しました。
少し離れたところで、
思わず叫びました。
⸻
歩きながら、
後悔しました。
最初に、
自分から、
「三周目です。」
と言えば、
済んだ話でした。
スタッフの方は、
失格にしようとしたのではありません。
むしろ、
失格にならないように、
急がせてくれていました。
それなのに、
私は怒った。
謝りもしなかった。
短気な自分が、
嫌になりました。
四周目を終えた時、
同じ人がいたら、
自分から謝ろう。
そう思いました。
⸻
日付が変わりました。
私は、
52歳になりました。
折り返しのエイドで、
「先ほど、
誕生日を迎えました。」
と話しました。
その場にいた皆さんが、
「おめでとうございます。」
と言ってくれました。
しばらくすると、
バースデーソングが、
流れました。
スタッフの方が、
わざわざ探して、
流してくれたそうです。
胸が、
いっぱいになりました。
「もう一回来ます。」
そう言って、
エイドをあとにしました。
⸻
五周目。
足首は、
さらに腫れていました。
固定を強くすると、
登りは楽になりました。
でも、
下りは、
さらに痛くなりました。
朝焼けを、
教えてくれた選手。
すれ違うたび、
声をかけてくれた選手。
エイドで、
励ましてくれたスタッフ。
そんな人たちの中を、
最後の一周、
進みました。
⸻
ゴールタイムは、
23時間00分23秒。
9時に、
あと23秒、
届きませんでした。
それでも、
完走できました。
足をひねってから、
14時間以上。
少しだけ、
涙が出ました。
⸻
根拠発掘。
あの時の私は、
「歩ける限りは、
やめない。」
そう決めていました。
それが、
完走につながったことは、
確かだと思います。
でも、
一人で、
歩き続けたわけではありません。
椅子を用意してくれた人。
「また来てくださいね。」
と送り出してくれた人。
誕生日を、
祝ってくれた人。
朝焼けを、
教えてくれた人。
声をかけてくれた人。
⸻
そして、
この時の私は、
まだ知りませんでした。
小枝だと思っていた、
あの鈍い音。
右足首は、
本当に折れていました。
翌日。
私は、
DEEP JAPAN ULTRA 100の、
事務局へ電話をかけました。
続く。
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