根拠発掘屋
「小枝の嘘。」
-DEEP JAPANへ③/⑥-
みなかみTrailRaceまで、
あと一週間。
膝の痛みは、
少しずつ、
落ち着いていました。
私は、
高尾山へ向かいました。
本当に走れるのか。
山で、
確かめたかったからです。
⸻
陣馬山の山頂が、
近づいた頃。
膝が、
痛み始めました。
先週よりは、
軽い。
そう思っていました。
でも、
下りに入ると、
痛みは強くなりました。
山頂へ戻り、
スマートフォンで調べながら、
初めて、
膝にテーピングをしました。
少し、
楽になりました。
ゆっくり縦走し、
高尾山口まで戻りました。
帰りに、
膝サポーターを買いました。
翌日は、
整形外科で、
膝に注射を打ってもらいました。
二日間休み、
その後は、
平地だけ。
木曜日の練習会も、
休みました。
レース前日に走った感触では、
サポーターを使えば、
走れそうでした。
⸻
当日。
現金を忘れ、
スタートにも、
15分遅れました。
それでも、
一人でスタートしました。
一周目は、
予想より楽でした。
二周目は、
暑さとの戦い。
それでも、
予定より早く進みました。
「これなら、
いける。」
そう思いました。
⸻
三周目。
体調は、
問題ありません。
人も少なくなり、
自分のペースで、
進めました。
その時、
彩の国のことを、
考えていました。
「無理するな。」
何人かに、
そう言われました。
私は、
その言葉が、
好きではありませんでした。
何も考えずに、
出場を決めたわけではない。
食事。
睡眠。
病院。
休養。
ジム。
プール。
やれることは、
やった。
無理はしていない。
だから、
大丈夫。
彩の国は、
実力不足だっただけ。
挑戦したことは、
間違っていない。
今度こそ、
証明してみせる。
そんな気持ちで、
走っていました。
⸻
その直後でした。
足を滑らせました。
右足首を、
内側へひねり、
そこへ、
全体重が乗りました。
鈍い音。
激しい痛み。
立っていられず、
近くの岩へ、
座りました。
⸻
足首を、
動かしてみました。
過去に、
骨折した経験があります。
その時より、
痛みは弱い。
だから、
「折れてはいない。」
そう判断しました。
では、
さっきの音は、
何だったのか。
踏んだ小枝が、
折れた音だろう。
そう決めつけました。
時計を見ると、
約52km。
まだ、
70km近く残っていました。
⸻
根拠発掘。
当時の私は、
無茶をしているつもりは、
ありませんでした。
病院へ行った。
休んだ。
走る量も減らした。
できる準備は、
しているつもりでした。
だから、
「無理するな。」
と言われることに、
納得できなかったのだと思います。
⸻
そして、
「やれることは、
全部やった。」
という事実を、
「だから、
大丈夫。」
という結論へ、
つなげていました。
でも、
準備をしたことと、
結果が出ることは、
同じではありません。
⸻
なぜ、
そこまで、
証明したかったのでしょう。
挑戦したことを、
証明したかったのか。
自分自身を、
証明したかったのか。
三度の失敗を、
取り返したかったのか。
今でも、
はっきりとは、
分かりません。
ただ、
一つだけ、
分かっています。
あの鈍い音は、
小枝ではありませんでした。
その時、
右足首の骨は、
もう折れていました。
私は、
まだ、
気づいていませんでした。
続く。
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