根拠発掘屋
「100円無駄にさせた。」
-ひろし君①/③-
小学生の頃。
同級生に、
ひろし君という友達がいました。
姉が二人。
兄が一人。
妹が一人。
五人きょうだいの大家族です。
実家はスーパー。
当時は繁盛していて、
いつも活気がありました。
ひろし君は、
少し体が大きく、
力もありました。
でも、
怖い人ではありませんでした。
いつも笑っていて、
話がおもしろく、
自然と、
みんなが集まっていました。
ぼくは、
学校では、
問題ばかり起こしていました。
学級会で、
ぼくのことが話題になった時も、
「良二も変わろうと頑張ってる。」
そう言って、
かばってくれたことがあります。
⸻
ある日、
ぼくたちは自転車で、
隣村の温泉施設へ行きました。
目的は、
ゲームコーナーです。
田舎には、
ゲームセンターがありませんでした。
そこにある、
数台のゲーム機は、
ぼくたちには、
特別な存在でした。
ひろし君が、
100円を入れて遊んでいる時。
ぼくは、
いたずらで、
壁のスイッチを、
一瞬切りました。
すぐに入れ直せば、
大丈夫。
そのくらいに、
思っていました。
当然、
ゲームは止まりました。
でも、
ひろし君は、
怒りませんでした。
少し驚いた顔をして、
「しょうがないな。」
そんな感じで、
笑っていました。
⸻
あれから何十年。
ひろし君は、
自衛隊へ進み、
結婚して、
千葉で暮らしていると、
同級生から聞きました。
実家のスーパーは、
もうありません。
それでも、
あの日のことは、
なぜか忘れません。
⸻
根拠発掘。
昔は、
「なぜ、
あんなことをしたんだろう。」
そう考えていました。
でも今は、
少し違います。
「なぜ、
ひろし君は怒らなかったんだろう。」
その方が、
気になります。
本当は、
腹が立っていたのか。
兄弟が多かったことと、
何か関係があるのか。
友達だったから、
許してくれたのか。
それとも、
昔から、
ああいう人だったのか。
本当の理由は、
本人にしか、
分かりません。
ただ、
【ぼく】が100円を、
無駄にさせたこと。
それでも、
ひろし君が、
怒らなかったこと。
その二つだけは、
何十年たった今も、
はっきり残っています。
続く。
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