根拠発掘屋
「手を振らなかった。」
子どもの頃。
運動会のお昼。
みんなのお弁当が、
とても羨ましく見えました。
赤いウインナー。
ミートボール。
きれいな卵焼き。
そして、
フルーツ。
彩りのいいお弁当が、
並んでいました。
それに比べて、
ぼくのお弁当は、
なんだか地味でした。
少し不恰好な卵焼き。
煮物。
奈良漬け。
たくあん。
フルーツも、
ありませんでした。
「なんで、うちだけ……。」
ぼくのお弁当だけ、
なんだか恥ずかしくなりました。
⸻
それとは、
別の日。
みんなと、
道を歩いていました。
何かの行事だったのか。
散歩だったのか。
そこは、
覚えていません。
向こうから、
ばあちゃんが、
杖をついて歩いてきました。
田んぼの帰りでした。
道路を挟んだ、
反対側です。
ぼくは、
ばあちゃんに気づきました。
でも、
声をかけませんでした。
手も、
振りませんでした。
気づかないふりをして、
みんなと、
そのまますれ違いました。
⸻
根拠発掘。
最近になって、
この二つの記憶が、
私の中でつながりました。
当時、
毎日の食事を作ってくれていたのは、
祖母でした。
父は、
五人きょうだいの末っ子。
祖母は、
明治生まれで、
私とは70歳ほど、
年が離れていました。
腰は曲がり、
杖をついていました。
それでも、
田んぼの世話をし、
裏庭で野菜を育て、
毎日、
台所に立っていました。
運動会の日、
祖母が作ったお弁当に入っていたのは、
どれも、
ぼくの好きなものばかりでした。
祖母が、
どんな思いで、
そのお弁当を作っていたのか。
今となっては、
分かりません。
当時の【ぼく】は、
好きなものが入った、
祖母のお弁当より、
友達のお弁当の方を、
羨ましく見ていました。
赤いウインナー。
ミートボール。
きれいな卵焼き。
フルーツ。
そして、
別の日には、
道路の反対側から、
杖をついて歩いてきた祖母に、
声をかけませんでした。
なぜ、
気づかないふりをしたのか。
それも、
今となっては、
はっきり分かりません。
ただ、
あの時、
手を振ればよかった。
その後悔は、
今も残っています。
今思い出すのは、
色とりどりのお弁当ではありません。
道路の向こうを、
杖をついて歩いてきた、
祖母の姿です。
続く。
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