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「百年文庫(013) 響」 ヴァーグナー、ホフマン、ダウスン 著

出版社:ポプラ社 ISBN:4591118959 値段:788円(税込)

(013)響 (百年文庫)/ポプラ社
¥788
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あらすじ:「ベートーヴェンへの憧憬が貧しい青年音楽家をウィーンへと駆り立て、感動の対面をはたす『ベートーヴェンまいり』(ヴァーグナー)。素晴らしい美声を持つ愛娘に、父はなぜ歌うことを禁じたのか?変人といわれた男の胸に秘められた想い(ホフマン『クレスペル顧問官』)。幼い浮浪者だった「私」を救ってくれた少女ニネット。前途に輝く成功のため「私」は温かい思い出を捨てた……(ダウスン『エゴイストの回想』)。音楽にまつわる、至福の、あるいは物狂おしい若き日の回想。」


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ということで、百年文庫第13弾!今回は「響」。音楽をテーマにした作品が三つです。今回はもうどれも凄く面白くて一気読みしてしまいました。もともと音楽が好きだからなのでしょうか。全体的に読んでいて面白かった。どの作品からも音が、心に響いてきた感じがします。では、一つずつ感想を述べていこうかなと思います。


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「ベートーヴェンまいり」…ヴァーグナーの作品。ヴァーグナーというよりもワーグナーというとピンと来るんじゃないでしょうかね。この人が小説を書いてるなんて知りませんでしたが、「ニーベルングの指輪」を書く位だから小説くらい書いてても不思議ではないかと後々思ってしまったり。

ワーグナーと思われる主人公がベートーヴェンに会いに行こうと決意する訳だ。しかし、同中であった自称音楽好きのイギリス人がもう嫌な奴でこいつに振り回されてなかなかベートーヴェンにお目通りが叶わないわけです。しかし、苦労して遂にお目通りが叶うが…。


ベートーヴェンってきっとこんな感じの事を話す方なんだろうなぁ~とか思っていたらなんとワーグナーはベートーヴェンに直接会った事がなかったらしい。想像だけでここまで書けたというのはひとえにベートーヴェンに対する情熱なんだろうなぁ。にしてもイギリス人ェ…。


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「クレスペル顧問官」…ホフマンの作品。顧問官という仰々しい役職と音楽がどう関係するのかと思うかもしれないけれど、もうこれは読んでもらえればわかるが、関係がありすぎてだからこそ凄く切ない。

クレスペル顧問官というそれもう奇人レベルの変わった人物には娘がいる。この娘の歌声は非常に美しい事で有名。しかし、街の人たちが彼女の歌声を聴いたのはただの一度だけ。それ以降決してクレスペルが娘に歌わせることはなかったのだという。たった一度の歌声ですべての人の心を魅了し放さない美声。有名になれるとすら思う人もいた位だ。しかし、では何故クレスペル顧問官は歌わせないのか。それは「いじわる」をしたいとかいうそういう安っぽい理由ではない事が判明する。


周りからどう想われようとも、彼にはそうしなくてはならない理由がある。娘を思う父の心が切なさを誘います。


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「エゴイストの回想」…ダウスンの作品。これまた仰々しいタイトル。しかし、内容はタイトルからするとそこまで仰々しくはない。かつて自分を救ってくれた少女にネットの事を年老いた「私」がその当時の事を思いながら彼女への「愛」を語るという感じかな。


その思い出を語っていく中の端々から「最初は自由に演奏していたのに、気付けば有名になり、二ネットという少女の大切さを忘れ後悔しているみじめな男」が居たように思える。

「有名になる=幸せ」というのが通説に見えるが「有名になる≠幸せ」ってのが本来は正しいのでしょう。彼の場合は、いつの間にか有名を得てしまい、富も得てしまった。傍から見ればそれこそ最高じゃねえかとか言うのだろうけれど、彼は気付くわけですよ。心が満たされていないという事に。


富、名声を得ても、心は満たされないっていうのはいかにも人間らしいというかにんげんだからこその悩みなのかもなって思った。「私」はきっと見かけは幸せ。しかし心はそうではない。多分、大抵の人はこの感覚には共感ができるのではないのでは?二ネットを想う彼の姿は酷く悲しげに見えた。


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と言った所で今回はここで終了します。


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次回も百年文庫。

テーマは「本」。

次回もなかなか良作ぞろい。

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