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「百年文庫(014) 本」 島本健作、ユザンヌ、佐藤春夫 著

出版社:ポプラ社 ISBN:4591118967 値段:788円(税込)

(014)本 (百年文庫)/ポプラ社
¥788
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あらすじ:「振り手と買い手の声が飛び交う古本市で、年下の小僧たちにさえ圧倒される青年・耕吉。生活力に溢れた庶民の仕事ぶりに、ほろ苦く自らを断ずる青春(島木健作『煙』)。遺言により封印された著名コレクターの蔵書をねらう男が繰り出す、抱腹絶倒の奇策の数々(ユザンヌ『シジスモンの遺産』)。同郷の文学青年に教えを請われ、作家のなんたるかを指南するうち、思わぬ人生訓にたどりつく「帰去来」(佐藤春夫)。「愛書狂」たちの、滑稽でちょっと切ない物語。」


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今回のテーマは「本」。本好きの本好きによる~という作品が多かったなというのが読み終わっての感想です。日本人作家の作品では主人公はどちらも酷く不器用。本好き=不器用な人間というイメージなんかな?


ユザンヌの作品が3つの中では一番印象的でした。一番しっくり来る話と言えば良いのか。ただ「本」というものだけに作品のテーマが留まらなかったというのがたまらなく良かったと言えば良いのかな。うん。


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「煙」…島木健作の作品。大々的な古本市というのが昔日本にもあったんですね。そこにまず驚きました。昔はこういう所から本を仕入れては悦に入っていたという事なのでしょうか。ここで思ったのは「素人」と「玄人」の差というものです。そして、それを痛感させられるのが古本市であれもこれもとマイケルジャクソンばりの馬鹿買いをしてしまってから。もっと分かりやすく言えば、オクとかもっと色々と回れば安く買えたものを「これは価値ある奴で今買わねば損だ!」なんて思ってしまって高い値段でも平気で吹っ掛ける。


何も分からない素人が陥りやすいミスをしまくる。玄人はもっと別の観点を見ているので主人公みたいな変な買い方はしないわけです。家に帰って戦果を見てみるともう悲惨。値段が高く貴重だと思っていた本は調べてみれば全然大したことはないし、ページが落丁し、それを言いに行くと「その場で言ってくれれば…」とかなんとか愚痴愚痴といわれて散々な結果に。痛々しい結果になんも言えんかった。でも「次こそは頑張ってくれ」と応援したくなる内容でした。


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「シジスモンの遺言」…ユザンヌの作品。今回の本の中ではガッツリと僕の心を捉えた作品でした。古書蒐集家のラウールと争う様に古書を蒐集していたシジスモン。二人は最高の理解者であると同時に最大のライバルでもあったのです。その最大のライバルであったシジスモンが死んだ。ラウールとしては彼と同じくらい古書に対しての造詣がある自分こそが彼の残した遺産を引きつぐに相応しいと思うわけですが、なんとシジスモンは彼にもその他の蒐集家にも自分のコレクションを渡さないというから、ラウール大激怒!一年に一回だけ閲覧を認められても「そんなのてめえの勝手だ!知るか、ボケ!!」状態。そこでラウールはシジスモンのコレクションをコレクションを管理するように言われている女性に近づいてコレクションを得ようとするのだが…。


その後の展開で描かれていくのは男の「執念」と女の「執念」のベクトルの違いであり、読む機会があればそこに注目をして貰いたいと思います。「本」をめぐる物語でありながら、男女が求めている「価値基準」の差っていうのがかなり違う。そして、女性の幸せを踏みにじった先には明るい未来なんてあるはずもない。それはいかに男性といえど止めようがない。


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「帰去来」…佐藤春夫の作品。「帰去来」とは「故郷に帰るために、官職を辞めてその地を去る事」という意味。正に、題名通りの内容。ただ、あまりピンとは来なかった。基本一文が結構長くて読んでてしんどいなというのが本音。しかしながら、タイトルに準拠した物語というので非常に分かりやすいのかもしれない。が、今の人からすると「ききょらい?ってなんじゃい」と言われそうだから作者の伝えようとした意図が現代のわれわれには伝わりづらいのかもしれない。


都会の生活の中で頑張ろうと思っていたが、段々と仕事をしていくにつれて歯車がかみ合わず「何かが違う」という時がないでしょうか。いや、都会に限らず日々の生活の中ででも良い。


また、大学でも良くあったのだが、ポテンシャルが凄い高く東京などでも十分に仕事がこなせそうな人でも地方から出た人の中には「都会は合わないなぁ」と感じたり、田舎の方がのんびりしていて良いという理由で戻ったりする人もいますね。別にそれが駄目だというんじゃないんです。この作品に出てくる人間も最終的にはそこに行き着く。そこに至る過程に「本」という存在がある。だが、正直「本」でなくとも良かった気がするのだ。それがもったいない気がした。


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今回は、どれも内容が良かった。次回も期待したいです。


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次回は、ようやく完結。しかし…。

「とある魔術の禁書目録22」

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