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「しずるさんと底無し密室たち」 上遠野浩平 著 出版社:星海社(講談社)

しずるさんと底無し密室たち (星海社文庫)/講談社
¥714
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あらすじ:「密室なんて人間のつまらない錯覚にすぎない。 今回はすべて『密室』の事件。扉も壁も鍵も、部屋そのものさえないのに『密室』って?これらの不可思議な事件を、しずるさんとよーちゃんはどうやって解き明かすのでしょうか―ひとりは病室から一歩も出ないのに?」


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しずるさんシリーズの第2弾となる「しずるさんと底無し密室たち」。上遠野さんの作品シリーズの中でも屈指の百合成分が高い作品ですし、他のシリーズと比べてもクロスオーバーも多くはない。正直百合成分があればそれだけでお腹いっぱい。ブギーポップシリーズやビートのディシプリンが佳境に入っている中唯一穏やかな空気が終始続くこのシリーズは唯一ほっとする作品ですね。

今回、しずるさんとよーちゃんが挑むのは、『密室』。正直普通のミステリィでいけば「これは密室ではなくね?」と言われてしまいそうなのですが、それを平然と「密室だ」と言い切ってしまうしずるさん。マジでしずるさんクールです、そこに痺れる、憧れるぅ!


ミステリィのレベルとしてはそこまで高くないのもあれば、もうこれは考え付いた作者様しか分かりえないですよと突っ込みたくなるものまで。謎解きはもうほとんど追加要素として考えた方が良いかもしれない。よーちゃんとしずるさんの絡みをみるのがこの作品の醍醐味ですからね。


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正直、謎解きなんてプラス要素ですよ、先ほども言ったように。しずるさんとよーちゃんの絡みを見て、ほっこりする。それがこのシリーズの楽しみ方ですよね。

しずるさんはなんでも知っていて、よーちゃんにこんなことを言って聞かせたりします。


「どっかの都市伝説の、その人が一番美しい時にそれ以上醜くなる前に、なんたら―とかいうのだって、確かめた人はきっと他の誰にもそのことを言わないと思うしね」(156)


あれ、しずるさんそれってブギーポップさんの事ではないのですか?しかし、それを全く知らないよーちゃんには驚きました。よくよく考えれば、よーちゃんには関係のない世界ですからねぇ。しずるさんはそういう事をしれっと言ってしまうから彼女のミステリアスな雰囲気はさらに増していくわけですが…。そしてしずるさんの発言にいつもおたおたしてしまうよーちゃん。うむ、これでいいのだ!


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また深読みかもしれないんですけれど、とある話でよーちゃんはしずるさんの「ドッペルゲンガー」らしきものを目撃することになります。普通の作品であれば、「ただの見間違い」で済むのでしょうが、なにしろ上遠野さんです。なんというか、余計な描写をしてないような気がするわけですよ。しかも、「その人の支えになっているような人」に見えてしまうキャラクターが存在しているわけですし。例えば、「飴屋」さん=ペイパーカットとかね。だから、よーちゃんが目撃したそのドッペルゲンガーも実はペイパーカットで知らず知らずのうちによーちゃんは遭遇していたんじゃないか?みたいな。ましてや世界観は共通ですからね。なくはないと…思うわけです。


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しずるさんの物語と並行して語られている「チク太」の冒険もしずるさんたちによって二転三転。この時のしずるさんとよーちゃんの絡みが本当に年齢相応の女子の絡みでもうニコニコしてしまいます。彼の物語は一体次巻でどうなっていくのでしょうか…。


しずるさんシリーズもどうやら2014年には新作「しずるさんと気弱な怪物たち」というタイトルで出るようなので、ようやく長い沈黙をやぶり再び登場する様で良かった、良かった。榎本さんが絵師ではないと思われるので、それはそれでなんか寂しい気もしますよねぇ。でももう星海社がおそらく引き取ってしまったからおそらく星海社で出て値段も倍に跳ね上がってウヘェ~ってなってんだろうなぁ…。


とまァ、ウダウダ言いつつも、来年の新作が楽しみです。