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「真夏の方程式」 東野圭吾 著 出版社:文藝春秋

ISBN:9784167110154 値段:686円(税別)

真夏の方程式 (文春文庫)/文藝春秋
¥720
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あらすじ:「夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう一人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。」


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ガリレオシリーズ第6弾。ここまで来るといよいよ大台に乗ってきたなという気がしないでもないですね。長篇としては3作目。今回は湯川が仕事で訪れた場所で殺人事件が起こり、あの湯川が能動的に事件に関わるというなかなか異色なテイストになっています。正直読んでいて「え、あの湯川が?」と思わず思ってしまいました。


というのも、今までの湯川というのは、警視庁から依頼されて、受動的に事件に関わっていくというスタイルを取っていたので、この様に自分から事件に首を突っ込んでいくというのは、あの草薙ですら驚くくらいです。さらに驚くのは湯川が子供である「恭平」と積極的に関わっているという事でしょうか。


今までは「子供」を見ただけで構えていた(何でも予測不能なことをしでかしてしまうとか何とか理屈をつけていましたっけ)人間が、「科学」を馬鹿にされたというだけで、ムキになり、最終的には夏休みの課題を教える家庭教師のポジションになり、進んで教えてあげるなど湯川の新たな一面を見せられました。案外面倒見が良いし、実は言うほど子供苦手ではないんじゃ?とか思ってしまうのですけどね。


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今回の物語は、どちらかというとミステリィとしての難易度はかなり低いと思います。最後の最後は僕も「え?」となってしまいましたけど、意外と予想通りのラインを行く感じです。そこまで科学的な超絶トリックとかも存在してないですし。しかし、その分ストーリーの方で今回は読ませている気がします。また科学は社会に対してどういう風にあるべきかとか「人間同士の絆」と言ったテーマを重視している気がしてます。


良く考えると、「容疑者X~」も「聖女の~」と言った長篇は根底にあるのは「絆」や「ヒト同士繋がり」ではないかと思います。そういうものをふと読んでいて思い出させるような言い回しがあったりしますしね。今回はよりその「絆」の部分を凄く意識しているように感じられます。だからこそ最後の最後は騙されるし、何とも言えない切なさとやるせない気持ちがグワっと持ちあがってきて…。湯川の告げる一言がなければきっと読者の我々も救われなかったんじゃないでしょうかね。


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今回の事件はある意味で「完結」しているようで「未解決」な事件。この部分に関してはある意味で言えば湯川でも解決「しきれなかった」(できなかったではなく、しきれなかった)事件であって、すなわちガリレオである湯川にも解けないものがあるという事でもあるわけです。湯川もそこまで万能ではない。その為か、今までのシリーズ中でも独特の余韻が残るモノとなった。


簡単に言えば「切ない」で済ませることもできる。しかし、この感じは「切なさ」だけでは言い表せない。それこそ「やるせなさ」も勿論あるし、もっと色々な感情がないまぜになってしまってもうなんだか凄く独特の余韻が残る作品だった。


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ガリレオシリーズも本作でもう書くことはないだろうと東野さんは思っていたと言いますが、この後、2冊短編集が出ましたね。残りの2冊も文庫落ちを待ちながら、今回はここらで終わりにしたいと思います。それでは、また次回。



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次回は、しずるさんシリーズ第2弾。

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