この連載が決まった時、目的を持たない旅をしようと考えた。
行き当たりばったりの取材をすること。ルールはそれだけである。
![極私的 関西ローカル電車の小さな旅-鉄道](https://stat.ameba.jp/user_images/20091218/11/kr-railway/93/f1/j/t02200165_0308023110344766388.jpg?caw=800)
第一回の旅の起点は帷子ノ辻。
帷子は「かたびら」と読み、布製の単の着物のことを意味するらしい。
そんな豆知識はともかく、僕は京福電車に乗り込んだ。
一両編成のワンマンカーは古めかしい体躯を
コトンコトンと揺らしながら、ゆっくりと進む。
老夫婦、中年のおじさん、いかにも観光客な3人組、下校途中の女子高生など、
平日の昼間らしく乗客はバラエティに富んでいる。
まず、御室仁和寺駅で降りてみる。
駅からほんの100メートルも歩いたら、
世界遺産「仁和寺」がでんと鎮座していた。
![極私的 関西ローカル電車の小さな旅-仁和寺](https://stat.ameba.jp/user_images/20091218/11/kr-railway/17/5b/j/t02200165_0308023110344766854.jpg?caw=800)
人影はまばらで、時節柄紅葉が眩しい。
遠足の小学生一塊がお弁当に舌鼓をうっている。
悠々と佇む五重塔を異国の旅行者たちが「ほほう」といった感じで見上げていた。
目的別に選べる一願300円の護摩木が、なんだかコンビニエンスな感じで笑える。
不景気の折なので、迷わず事業発展を選んだ。
仁和寺を後にして、隣りの妙心寺駅まで歩くことにする。
さすがローカル電車だけに、駅間はかなり短い。
線路が一条通と交差する妙心寺駅周辺は、あまり特徴のない住宅街。
妙心寺までの道中、「わんだあ」という可愛いらしいCAFEが。
店前の自転車もそうだが、モノにこだわる店主の顔が浮かぶ。
トボトボと歩いていくと、モモ肉100g弐百七拾円などと書かれた値札がぶら下がる、
骨董品のような鶏肉屋を発見。
入店すると、髪の毛をオレンジ色に染めた
切符の良さそうなお婆ちゃんがちょこんと座っていた。
「ウチはな、丹波の鶏しか出しませんねん。
これ食べたら、スーパーのなんか食べられしませんわ」
と豪快に笑うお婆ちゃん。
聞くと、創業数十年。太秦撮影所が近いので、
銀幕の大スターや歌舞伎役者が昔からの常連だそう。
「店の前に軍艦横付けにしてな、買いに来はるねん」
誇らしげにそう語るお婆ちゃんに「軍艦って?」と尋ねると、
「アメリカの車のことや」とまたもや豪快に笑うのだった。
妙心寺から再び京福電車に乗り込む。
流れる風景は、住宅街から少しだけ京都らしい「街」の風情に変わっていく。
終点、北野紅梅町駅で降りる。
北野天満宮の玄関口だが、
寺社仏閣ばかりを巡っても面白くないので、駅周辺をぶらぶら。
いかにも女の子が喜びそうな、和モダンな豆腐店を発見。
豆腐ではなく、十富。近くにはこの店がプロデュースしているTOFU-CAFEも。
デートには最適だろうが、一人なので素通りする。
東西に伸びる商店街をゆらゆらと歩く。
この商店街には妖怪のキャラがあちこちに登場する。
よくある町おこし、商店街おこし、みたいなもんだろうが、
そういうのは安易な感じがしてあまり好きではない。
(僕の勘違いなら、申し訳ないが・・・)
だから写真も撮っていない。
商店街の方々もいろいろご苦労はあるだろうが、
ただの通りすがりの旅人から言わせてもらえれば、
やはり「素の町」が見たい。
妖怪キャラはともかく、面白そうな店もチラホラあった、
「そうだ 猿基地 行こう」
なんとも気になる居酒屋 猿基地。
日本人は所詮、イエローモンキー。
古い木造の京町家があるので覗いてみると、タマヒメ酢の醸造所だった。
僕がこれまで生きてきて、ミツカン以外の酢を買ったのは
此処の「玉姫酢」がはじめてである。
数年前、その綺麗なボトルを見て衝動買いしたのだが、
まさかこんなところで再会するなんて。
こんな偶然があるから行き当たりばったりの旅は面白い。
帰りに京都らしいラーメンが食べたくなったので、大徹という店に飛び込む。
支那竹をアテに瓶ビールをチビチビ。
ラーメンは鶏ガラスープに豚の背脂、濃厚醤油味。
麺もチャーシューも言うことなし。
ぶらり旅の〆は、やっぱり地元のラーメンに限るのだ。
(12.3 京都にて)