極私的 関西ローカル電車の小さな旅

極私的 関西ローカル電車の小さな旅

某電力会社の社内誌に連載中の「極私的 関西ローカル電車の小さな旅」のブログ版。
月1連載ですが、本編以外のネタもたまに書こうと思います。

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極私的 関西ローカル電車の小さな旅



新世界で出会った 歌唄い タナカのおっさんは


67歳になった現在も お店で流しをして食ってはるらしい


サビサビの安物のアコースティックギターで


チューニングは無茶苦茶


どんな歌も自我流のコード進行で弾きまくる




極私的 関西ローカル電車の小さな旅



しかし 歌だけはなかなかうまかった


「兄ちゃん お金いらんから もう一曲聴いてくれ」


そう言って タナカのおっさんは 小林旭を唄った



「兄ちゃん チョコレート食べたいんや」



近所の万屋で 板チョコを一枚買ってあげた


タナカのおっさんは うれしそうな顔で去っていきはりました



極私的 関西ローカル電車の小さな旅

極私的 関西ローカル電車の小さな旅

極私的 関西ローカル電車の小さな旅

極私的 関西ローカル電車の小さな旅

阪堺電鉄の大阪の入り口は、天王寺と恵美須町。


今回は恵美須町から堺の浜寺まで向かい、


天王寺へ折り返すというルートをとることにした。



自宅から地下鉄谷町線で恵美須町へ。


改札を出て歩いていると、こんな看板が。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-日活


完全に仕切られた個室で、大人の映画が見れるそうです。


・・・むふふ。


しかし、駅という公共施設で、こういうのは「あり」なんだろうか?


ま、なんでもありの土地柄だから、これくらいは大丈夫か。



駅に着き切符売り場を探すが、どこにもない。


阪堺電車はバスと同じで、降りる時にお金を払うのね。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-電車



一両編成のチンチン電車は


いかにも昭和初期の匂いがする重厚な内装。


それもそのはず、運転席入り口上部に


「川崎車輌檜社 昭和参年」と書かれたプレートが。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-川崎


まさに走る文化遺産。乗るだけでも価値がある。



車窓に流れる景色は、


洗濯物が吊るされた下町の家屋や、


風雨にさらされて変色した選挙ポスターが貼られた店舗など。


大阪サウスブロンクスの民家を縫うように走っていく。



とりあえず我孫子駅で降りてみるが、小さな商店街があるだけ。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-あびこ


薬局、食堂、魚屋、よろず屋など


鄙びた商店のオンパレードだった。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-結婚相談


駅前の喫茶&カラオケ&占い&結婚相談所。


・・・残念ながら、ここに結婚相手を探してもらう勇気はない。



仕方なく、終点浜寺駅まで突っ切ることにする。


取材時の気温は5度、曇り空。


年間100万人が訪れるという浜寺公園も


さすがにこの冬空の下では閑散としたもんだ。


公園をトボトボ歩いていくと、海に出た。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-海


灰色の空、鉛色の海、対岸で煙を吐き続ける工場地帯。


うすら寂しい乾ききった景色を眺めていると、


アキ・カウリスマキ監督の北欧映画が思い出される。


ゴミ清掃車の運転手、肉切職人、パートタイムのレジ打ち・・・etc。


カウリスマキの作品は、息も凍る北欧の冷たい町を舞台に


そんな人々のどうにも切ない人生を描く。



寒さに耐え切れず、折り返し電車に乗り込む。


文庫本を取り出し、しばしの読書タイム。



 『回送電車』 



---それぞれに定められた役割のあいだを縫って、


 なんとなく余裕のありそうなそぶりを見せる


 この間の抜けたダンディズムこそ“居候”の本質であり、


 回送電車の特質なのだ---



そんな文章からはじまる、芥川賞作家・堀江敏幸の散文集。


客を乗せる責任なしに、とりあえず行き先に向かう回送電車。


人生の正道が見つからないまま、


なんとなく脇道をダラダラと進んでいる


今の己の気分にピッタリである。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-車窓


車窓から、大和川が見える。


昔、友人に連れられてバス釣りに来た時は、


排水の垂れ流しのためドブ川のようだったと記憶しているが、


今はずいぶんとキレイになったような気がする。


住吉大社で降りてみる。


数日遅れの初詣客がチラホラ。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-たいこ橋


ほぼ垂直に登っていく太鼓橋でコケそうになる。


四十を過ぎて、足腰の弱体化は急速に進んでいる。



終点天王寺駅に着く。


商店街沿いに南へ進んでいくと、


居酒屋の『世界遺産』 明治屋がちょこんと佇んでいる。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-明治や



酒一文字の暖簾、格子窓、一枚板の看板など


その年輪を重ねてきた店構えに吸い寄せられた。


昼1時開店の店内では、矍鑠とした老人や


恐らく自由業であろう空気を纏った髭のおじさんなどが、


無音の凛とした空間で思い思いに昼酒を飲っている。


僕も湯豆腐と燗酒を注文。


酒は樽から出される松竹海老、


そして古めかしい金属製の燗装置に 薄いガラス製の徳利。


最初の一杯は妙齢の女主人のお酌付き。


柚子皮がのった湯豆腐をアテに盃を口にやると、


上燗の松竹海老がスぅーっと喉の奥に吸い込まれる。


・・・一体なんなんでしょうか、この旨さ。


時間が止まったような、ここでしかあり得ない空気の中で、


「酒の正しい飲み方」を再発見させられたような気分になった。



常連さんと女主人の会話を聞いていると、


どうやらこの11月をもって店舗は移転となるらしい。


よくある街の再開発の煽りである。


道路拡張と商業ビルの建設。


新しいモノはいくらでも建てることはできるが、


古いモノを一度壊してしまうと二度と元には戻らない。


明治屋を壊すということは、まさに古き良き居酒屋文化を


大阪の町から消してしまうことと同じである。


恐らく、これがヨーロッパのちゃんとした都市なら、


国宝や寺院や文化財でなくとも、


街の遺産を壊すようなことはしないだろう。


ニッポンは、やっぱりアホだ。どうしようもない。



とりあえず体が仄かにあったまったので、歩いて新世界まで。


環状線の高架下には、怪しげな露天商が並ぶ。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-露天


キリスト様が売られていたり、


サイン入りのマイナー演歌歌手のパネルが売られていたり。


・・・一体、誰が必要としているのか。


ジャンジャン横丁を通天閣に向かって進む。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-王将


将棋の王将、ブー麻雀、串カツ屋などを横目に


本日の終着点「ホルモン道場」へ。


黒光りする鉄板、手書きのメニュー、


これでもかとしつこくモヤシを焼く流儀、味のあるマスター。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-おやじ



「最近はなあ、土日は観光客で一杯や。


串カツをみんな並んで食べはるねん。おもろいなあ。


この辺も変わってきたわ」



マスターは遠い目でそう言ったが、


この店はちょこっと値上げした以外、何一つ変わっていない。


500円のホルモン盛合せと100円の大根漬けをアテに、


キリンラガーをぐいと飲み干した。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-カラオケ


帰りに歌のうまいママがやってるカラオケ居酒屋で、


「想い出迷子」と「大阪ものがたり」を熱唱。


昼間から僕は一体何をさらしているのであろうか。





つづく。








この連載が決まった時、目的を持たない旅をしようと考えた。


行き当たりばったりの取材をすること。ルールはそれだけである。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-鉄道


第一回の旅の起点は帷子ノ辻。


帷子は「かたびら」と読み、布製の単の着物のことを意味するらしい。


そんな豆知識はともかく、僕は京福電車に乗り込んだ。


一両編成のワンマンカーは古めかしい体躯を


コトンコトンと揺らしながら、ゆっくりと進む。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-乗客


老夫婦、中年のおじさん、いかにも観光客な3人組、下校途中の女子高生など、


平日の昼間らしく乗客はバラエティに富んでいる。



まず、御室仁和寺駅で降りてみる。


駅からほんの100メートルも歩いたら、


世界遺産「仁和寺」がでんと鎮座していた。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-仁和寺


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-紅葉


人影はまばらで、時節柄紅葉が眩しい。


遠足の小学生一塊がお弁当に舌鼓をうっている。


悠々と佇む五重塔を異国の旅行者たちが「ほほう」といった感じで見上げていた。



極私的 関西ローカル電車の小さな旅-五十塔


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-おふだ


目的別に選べる一願300円の護摩木が、なんだかコンビニエンスな感じで笑える。


不景気の折なので、迷わず事業発展を選んだ。



仁和寺を後にして、隣りの妙心寺駅まで歩くことにする。


さすがローカル電車だけに、駅間はかなり短い。


線路が一条通と交差する妙心寺駅周辺は、あまり特徴のない住宅街。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-カフェ


妙心寺までの道中、「わんだあ」という可愛いらしいCAFEが。


店前の自転車もそうだが、モノにこだわる店主の顔が浮かぶ。


トボトボと歩いていくと、モモ肉100g弐百七拾円などと書かれた値札がぶら下がる、


骨董品のような鶏肉屋を発見。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-鳥屋


入店すると、髪の毛をオレンジ色に染めた


切符の良さそうなお婆ちゃんがちょこんと座っていた。


「ウチはな、丹波の鶏しか出しませんねん。


 これ食べたら、スーパーのなんか食べられしませんわ」


と豪快に笑うお婆ちゃん。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-おばあ


聞くと、創業数十年。太秦撮影所が近いので、


銀幕の大スターや歌舞伎役者が昔からの常連だそう。


「店の前に軍艦横付けにしてな、買いに来はるねん」


誇らしげにそう語るお婆ちゃんに「軍艦って?」と尋ねると、


「アメリカの車のことや」とまたもや豪快に笑うのだった。



妙心寺から再び京福電車に乗り込む。


流れる風景は、住宅街から少しだけ京都らしい「街」の風情に変わっていく。


終点、北野紅梅町駅で降りる。


北野天満宮の玄関口だが、


寺社仏閣ばかりを巡っても面白くないので、駅周辺をぶらぶら。


いかにも女の子が喜びそうな、和モダンな豆腐店を発見。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-十富


豆腐ではなく、十富。近くにはこの店がプロデュースしているTOFU-CAFEも。


デートには最適だろうが、一人なので素通りする。



東西に伸びる商店街をゆらゆらと歩く。


この商店街には妖怪のキャラがあちこちに登場する。


よくある町おこし、商店街おこし、みたいなもんだろうが、


そういうのは安易な感じがしてあまり好きではない。


(僕の勘違いなら、申し訳ないが・・・)


だから写真も撮っていない。


商店街の方々もいろいろご苦労はあるだろうが、


ただの通りすがりの旅人から言わせてもらえれば、


やはり「素の町」が見たい。



妖怪キャラはともかく、面白そうな店もチラホラあった、


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-猿基地


「そうだ 猿基地 行こう」


なんとも気になる居酒屋 猿基地。


日本人は所詮、イエローモンキー。


古い木造の京町家があるので覗いてみると、タマヒメ酢の醸造所だった。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-たまひめ酢


僕がこれまで生きてきて、ミツカン以外の酢を買ったのは


此処の「玉姫酢」がはじめてである。


数年前、その綺麗なボトルを見て衝動買いしたのだが、


まさかこんなところで再会するなんて。


こんな偶然があるから行き当たりばったりの旅は面白い。



帰りに京都らしいラーメンが食べたくなったので、大徹という店に飛び込む。


極私的 関西ローカル電車の小さな旅-大徹ラーメン


支那竹をアテに瓶ビールをチビチビ。


ラーメンは鶏ガラスープに豚の背脂、濃厚醤油味。


麺もチャーシューも言うことなし。


ぶらり旅の〆は、やっぱり地元のラーメンに限るのだ。





                                (12.3 京都にて)